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「レイラ!!」
必死な表情で私を見ているクラウス。
今にも飛び出して来そうな彼を執事さんが必死に止めていた。
「大丈夫だよ、クラウス。本当に雪は怖いものじゃないよ。だって私、健康そのものだから」
笑顔で手を振るとクラウスが困ったような表情を浮かべた。
外に出て行こうとするクラウス。
そんなクラウスの腕をカペルが掴んだ。
「何してるわけ?レイラ」
「カペル!」
「大変です、カペル!レイラが……っ」
「見れば分かる」
カペルはため息をついてクラウスの腕を離した。
そしてスタスタと私の側に歩いてきた。
驚愕する周り。
カペルはそのまま私の前まで来ると私の頬に触れた。
「本当に何も無い?」
「うん……」
「平気な振りとかじゃなくて?」
「そんな事ない」
そう言い切るとカペルは私の手を掴んだ。
カペルの手、あったかい……。
「カペル、怖くないの?」
「俺はレイラの婚約者だろ?」
「……っ!」
「お前が危ない事してるなら俺もその場に行く。それに、レイラの言葉は信じるから」
「ありがとう……」
「ただ、勝手に無茶苦茶な事しないでほしい。心臓がいくつあっても足りなくなるから」
真剣な顔でそんな事言われたら、嬉しくて泣きそうになってしまう。
カペルにとって私は『ただの楽な幼馴染』でしかない。
婚約してくれたのだって、私なら楽だからって理由だと思う。
それでも、こんなに優しくしてくれたら『本当に私を好きなのかな』って錯覚してしまいそうだ。
小さく頷くとカペルは息をついた。
「クラウス、平気。本当に怖いものじゃないみたい」
周りの人は呆気に取られていて、それから全員が顔を見渡した。
クラウスは覚悟を決めたようにして外に飛び出した。
それから驚いた顔をして私達を見た。
「本当だ……、何もない……」
「本当に大丈夫だよ。雪って冷たいからあまり触ってると風邪は引くかもしれないけど……。でも、最高の遊び道具なんだから」
「雪、と言うのですか?」
「うん」
「レイラは本当に、なんでも知っていますね」
楽しそうにはしゃぐ私達を見て、周りの人もホッとした表情をしていた。
それからは、国民に『雪は安全だ』と伝えられた。
外で賑やかに遊ぶ子供たちが増えて、街に活気が戻った。
だけど、そんな平和も一瞬で終わりを告げる。
前世でも冬の季節に猛威を振るっていたあの病。
そう、『インフルエンザ』が出始めたのだ。
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