悪役令嬢、誕生前のお話

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「よし、今日からウチにおいで」 私がそう言うと皆が驚いた。 「そんな勝手に決めていいんですか?伯爵の許可も無しに……」 「いいよ、言ったら絶対に反対するもん」 「そりゃそうだろ。素性も分からない奴を家に呼ぶなんて」 「でもこの子困ってそうだよ?困ってる人を放置していいの?」 私がそう言うとティアナが女の子の前に立った。 「事情を話してもらえない?」 ティアナの言葉に戸惑う女の子。 それから深呼吸をすると小さな声で話し出した。 「わ、たし…この近くのお屋敷で、働いてました……」 「え?働いてたって、まだ働くには若すぎない?」 そう言うとクラウスが険しい顔をした。 「人買い、ですね」 「え?」 「世界でも人身売買は禁止の方向に動いています。現在でも行っている場合、その者は罰せられる。ただ、そういった人間は隠すことに関しては得意中の得意です。見つける方が難しい。きっと彼女はその人身売買によって屋敷に買われたのでしょう」 『奴隷』というやつだろうか。 前世でも言葉も意味も知っているけど、実際に見たことはない。 だってそんな制度無かったから。 ここは元はファンタジーの世界だ。 あって当然なのかもしれない。 「私、お仕事できないから…追い出されたんです…」 悲しそうにそう言う女の子。 私は彼女の手を握った。 「うん、やっぱりウチにおいで」 「レイラ!」 「大丈夫、カペル。お父様も事情を説明したら許してくれる。それに私、このまま放置できないもん」 私は女の子の手を掴んで笑顔を向けた。 「私、レイラって言うの。貴女は?」 「あ……、マナ、です……」 「よろしくね、マナ!」 マナを連れて家に戻ると案の定お父様が険しい顔をした。 説明をすると深いため息をつかれた。 「それで?その、マナと言ったか?その子をどうしたいんだ?」 「私の専属メイドにしたいの」 「は?」 「お父様、私はこれでもこの国を救った天才姫ですよ?そんな私が専属のメイドも付けていないなんて、そんな恥ずかしい事がありますか?」 「それなら今のメイドたちから選べば……」 「私はマナがいいんです」 頑なに引かない私を見てお父様は頭を抱えた。 「分かった。それが望みならそうしなさい」 「ありがとうございます!」 「お前には随分と助けられた。その褒美だ。……それで、マナをどこで見つけたと言った?」 「街の西側」 「西……あそこは確かダーリントン家の……」 何かを考えてお父様は頷いた。 「レイラ、とにかくお前はマナの面倒をちゃんと見るんだ。お前が連れて来たんだからな。簡単に放置するな」 「しません、絶対に」 私はマナと仲良くなるんだ。 そしていつかカペルに捨てられても寂しくないようにするんだ。 そう決意して私はマナに笑顔を向けた。 マナもようやく安心したのか、嬉しそうに私に笑ってくれた。 これから少しずつ私は最悪の結末を避けるために頑張る。 絶対にティアナを悪役令嬢になんかさせない。 クラウスと結婚させてみせる。 とりあえず、ティアナが悪役令嬢になるであろうフラグは一つ折った。 これから何が起きるか分からないけど、私は準備を進めようと心に決めるのだった。 【悪役令嬢、誕生前のお話】 ・
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