『この世界』の悪役

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「どうしたんだ?レイラ。もうすぐ殿下のスピーチが行われるが……」 そこまで言ってからお父様はマナに掴まれている私の手のひらを見た。 「……その怪我は?」 「ちょっと転びました」 「転んだ?」 怪訝そうなお父様の横でお兄様がため息つく。 「レイラ。確かに君はとてもお転婆で危なっかしいけど、転んだにしては不自然な怪我の仕方をしてるよ」 「どうしてですか?」 「人は転ぶと前に手をつくよね。でもレイラの怪我の様子から見て、どう見ても手のひらの『横』中心に怪我が酷い。そして足も左側に怪我を負っている。それは倒れたって言う方がしっくりくる」 さすがはシルヴァ家の洞察力。 言っていることは間違ってない。 これ以上この頭の良い家族を騙すのは難しいな。 私はため息をついて頷いた。 「実はジェシカに車道に突き飛ばされたんです」 「何?」 一気に険しくなるお父様やお兄様、そしてお母様の顔。 それを見てマナが青ざめた。 「レオが助けてくれなかったら今頃私は馬車に轢かれて大怪我でした」 「先ほどジェシカ・リードがお前に突き飛ばされ大怪我をしたと大騒ぎしていた。……何があった」 「私は単にジェシカに警告しただけです。クラウスはティアナという婚約者がいるので、むやみやたらにベタベタするものじゃないって。それから、レオやマナの調査によってジェシカがティアナに行ってきた数々の所業について言及していたんです。そうしたら私は見事にジェシカに突き飛ばされました」 私の言葉にレオが頷く。 お父様は深いため息をついた。 「お父様。ジェシカはクラウスや他の国の王子様の前では人畜無害な様子を装っています。ですが、お城の使用人に対しての傍若無人ぶり。人を物のように扱うその様子に私は我慢が出来ません」 「そのような報告は多少なりとも聞いていた。しかし、彼女はワイナー様からの預かりものだと……」 「そのワイナー様から許可を得られたので、私は動こうとしています」 「何?ワイナー様から許可?」 驚くお父様にニコッと笑いかける。 「お父様。私は彼女をアストロベガ城の修道院へと送ろうと思っています」 「送るといっても、罪も犯していない人間を簡単に送れるような場所では……」 「送れますよ。だって、このお城には沢山の証人が集まっていますから」 レオがお父様にどこから取り出したのか、何かの資料を手渡す。 その内容を見てお父様がさらにため息をついた。 「このままでは城の人間とティアナ嬢が危ないな」 「その通りです。彼女は城の研究者達に無理を強いた上、クラウスに無理矢理薬草を口に含ませました。一歩間違えばクラウスは人形のようになっていた事でしょう」 「レイラが嘘をつくとは思えない。これは事実なのだろうが、それをどうやってジェシカ・リードの口から言わせる?しらばっくれるはずだ」 お父様の言葉にレオが手を挙げた。 「恐れながら旦那様、発言をお許しください」 「なんだ」 「ジェシカ様はレイラお嬢様を車道へと突き飛ばした際、こう発言をされておりました。『愛されているのは自分か、レイラお嬢様か』」 「どういうことだ?」 「これから彼女はレイラお嬢様を糾弾されるでしょう。お城の研究者達に対しても高圧的な態度をとっているのであれば、おそらくはレイラお嬢様が研究されていた内容や情報を盗み出している可能性もあります。つまり、彼女はレイラお嬢様を盗人と言ったり嘘つきと言ったり、とにかくレイラお嬢様を否定し続けることと思われます」 「それを、信じるものが自分には多くいると?」 「はい。彼女にはその考えしかないのではないかと」 レオはそういうとお父様に頭を下げた。 お父様は頭が痛そうに頭を抱えた。 ・
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