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昔のクラウスは私達に対して敬語だった。
それが王子としての姿だって思ってたから。
私が敬語で話されるのに違和感があって無理矢理ため口に矯正したけど、今思えばクラウスってゲームの中では普通に敬語だった気がする。
まあ王子様だしな。
クラウスのスピーチが終わり、クラウスが頭を下げる。
周りから賞賛の拍手が送られている中、ジェシカは走ってきた。
まるで悲劇のヒロインのように。
「助けてください!クラウス様!」
目に涙を浮かべているジェシカに驚く周り。
当然抱きつかれたクラウスも驚いている。
その中でカペルは静かにジェシカを見つめていた。
「ジェシカ?一体どうしたの?その怪我は?」
「あ…これは……」
わざとらしく怪我を隠そうとするジェシカ。
実際こういう場面を目の当たりにすると寒気がするのはどうしてだろうか。
「ねえ、レイラ。あの怪我、レイラに突き飛ばされたって……」
「ああ、ジェシカから聞いたの?」
「私が直接聞いたわけじゃないんだけど、お城のメイドさんに大声で言っていたから……」
「私じゃないよ。あれはジェシカが勝手に怪我しただけ」
「やっぱり、そうよね。レイラがそんな幼稚なことするはずがないもの」
ティアナはそう言って少し怒ったように言った。
ああ、怒ってるティアナ天使。
ちらっと私を見るジェシカ。
クラウスは何かを察してからジェシカに微笑みかけた。
……目は完全に笑って無かったけど。
「ねぇジェシカ。教えて。どうして君はそんな怪我をしているの?」
「……これは、レイラ様に……っ」
怯えたように体を震わせるジェシカ。
本当に馬鹿な子。
私が幼馴染の皆を大事にしているように、他の3人も同じだってどうして思わないの?
クラウスだけが例外なわけないじゃない。
だってクラウスは、誰よりも私達を大事にしてくれているのに。
私は時間をあげて貴女にクラウスの傍にいることを許した。
その時に何も勉強しなかった?
クラウスが私達を大事にしている形跡は、部屋にも、執務室にも、どこにも、無かった?
幸せなことにしか興味がない馬鹿で哀れなヒロイン。
……ああ、もう違うか。
私はこぼれそうになる笑みをこらえた。
「レイラ?レイラが君に何をしたの?」
「私…レイラ様に突き飛ばされたんです……っ」
ざわつく周り。
彼女はこのざわめきに対して、自分を心配してくれていると勘違いしていることでしょう。
実際は違う。
『シルヴァ家の人間を非難した』ということに対しての驚きと恐れだ。
アルは小さな声で「彼女の心臓はすごいね」と呆れたように言った。
「レイラが、君を突き飛ばしたの?」
「はい……」
「そんなに大きな怪我をするくらいだ。どうやってレイラは君を突き飛ばしたの?」
クラウスの質問を聞いて、私の後ろから盛大なため息が聞こえてきた。
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