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「エストラルドの王子は相変わらず意地が悪い」
「リリク様」
振り返るとリリク様が頭を抱えていた。
「あの女が馬鹿なのは分かっているはずだ。ここであの女の言っていることが嘘だと突き詰めるつもりか」
「はい。クラウスには何も言っていませんが、おそらくは何か察したんだと思います」
「……恐ろしい男だな」
リリク様の言葉にティアナが困ったように微笑む。
「私は、レイラ様とも仲良くなろうとしたんです。私の事を嫌ってるって、分かってたけど……。私は、この国の皆と仲良くなれたらなって」
「そうだね。それで?どうやって突き飛ばされたの?」
「私が今夜のパーティーに出席すると聞くと、突然レイラ様に突き飛ばされて……っ」
言葉を詰まらせて泣き出すジェシカ。
本当に馬鹿すぎて頭痛くなってくる。
私がジェシカがここへ出席するのを聞いて突き飛ばした?
それが本当なら、そこまで怪我しないでしょ。
そこまでの怪我をするくらいなら、それこそ車道へ突き飛ばしたりしないと不可能だ。
……そもそも、あの怪我ってどうしたの?
不思議に思っていると私の傍にレオがやって来た。
「お嬢。あの怪我、本当に怪我してません」
「え?」
「城のメイク担当に聞きました。ジェシカに脅されて特殊メイクを施したと」
「脅された?」
「はい。そのメイク担当には病気がちな両親がいるんですが、その両親を病院へ入院させてやるとジェシカが言っていたそうです。入院費が払えないと思っていたメイク担当にとっては嬉しい提案だったでしょう」
「ちょっと待って。ジェシカが入院費を払う?そんなお金、一体どこに……」
「お嬢。そんなの、嘘に決まってるじゃないですか」
「うわ、最低」
「そう言ってズルズルとそのメイク担当を使ってクラウス殿下に心配されたいがために特殊メイクを何度かしたそうです。いまだに両親は入院していません」
「従わなければ話は無かったことにってか……」
「虫けら以下だな」
リリク様はそう言い放つと嫌悪の眼差しをジェシカに向けた。
「わかった。レオ、そのメイク担当の人の両親について分かるだけ調べて。私が何とか出来ないか考えてみる」
「分かりました」
レオはそういうとその場を立ち去った。
あれが特殊メイクなのであれば実際は怪我なんてしてない。
それを証明すればいいだけの話。
「マナ」
「はい」
私の傍にいたマナに無線機を渡す。
「これをカペルに渡せる?」
「承知いたしました」
マナは人ごみに紛れると素早くカペルに近づいて無線機を渡した。
「本当に、お前の使用人達は何者なんだ」
「羨ましいでしょう、リリク様」
私は無線機をつなげるとカペルに話しかけた。
「カペル、聞こえる?」
『レイラ?』
「お願いがあるの。このまま私はジェシカを追放しようと思ってる。多分だけどクラウスも分かってるから色々聞いてるんだと思うの」
『だろうな。クラウス、珍しく怒ってるし』
「そこで、そのジェシカの怪我がどういった経緯でそうなったかを詳しく話させてほしいの。あそこまでの怪我、正直車道に突き飛ばされて、しかも馬車にでも轢かれない限りあり得ない。でもそれなら立ってることじたい不自然。この会場の人達は分かっていると思うけど、これはジェシカ追放のチャンスなの」
『分かった』
「ありがとう、カペル」
『なんでお礼?俺はレイラを守れるなら何だってやるよ。正直、俺もイラっときてたし』
「え?なんで?」
『だって、人の婚約者悪く言ってるんだぞ?俺、お前の事になると視野狭くなるから』
カペルはそう言うとクラウスに近づいた。
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