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「ジェシカ嬢、少しいいか」
「は、はい。カペル様」
「そこまでの怪我をしているのに、それほどまでに動けているのは何故だ?」
「え……」
「俺は騎士団に属しているから怪我の具合は良く分かっている。見たところジェシカ嬢の怪我は正直入院が必要なくらいのレベルだ。額に傷があるということは頭を打ったという事。早急に医者に診てもらうべきでは?」
「い、いえ!そこまでは……」
「レイラに突き飛ばされたのはいつだ?」
「え?えっと……凱旋パレードが始まったころで……」
「あれだけの人がいた中でレイラに突き飛ばされたのか?」
「ちょうど人が少ない場所でしたので……」
「頭を打ったのなら倒れこんだりしただろう。それに、傷があるということは額から血を流したということだ。気を失わなくても、その場から立ち去る際には血を流して歩いている君を誰かしら見ているはずだ。それに、その腕や足の怪我。そこまで酷い怪我をしているのに、足を引きずることもなく、腕も問題なく曲げられている。それに、走ってきたよな?」
「!!」
「明らかに、自分の怪我を見てほしいと言わんばかりに。普通、怪我をしたら病院に行くだろ?レイラと仲良くしたかったと言うなら、隠そうと言うなら、病院に行って治療を受けてくるだろ。どうしてそのまま戻った?」
「も、もう、耐えきれなくて……っ」
「この場でクラウスにその怪我を見せて、この場をめちゃくちゃにしたかったのなら大成功だな」
「え……」
ジェシカが周りを見渡す。
周りが自分を見ている目が、自分の思っているような視線でないことを悟ってジェシカが青ざめた。
「すべて終わってからクラウスに話すか……それか俺なら、黙って城から出ていくけどな」
「なんで……」
「俺にとってクラウスは大事な存在だからだ。そんな大事な奴の大事な日をめちゃくちゃにしたいとは俺は思わない」
「……っ」
「で?病院行かないの?」
カペルの言葉に明らかに焦った様子のジェシカ。
それからハッとして勝ち誇ったように言った。
「わ、私が研究者の人達と一緒に作った痛み止めの薬を飲んだので一時的に痛みがないんです!」
その言葉にさらに会場がざわついた。
「痛み止めって何?」
そう聞いてきたのはグレン様。
私が説明しようとすると、アルが困ったように口を開いた。
「レイラが作った痛みを和らげる薬の事だよ。少し前にシルヴァ伯爵とレイラが父のために持ってきてくれてね。でも、まだ試作段階で公表されてないって……」
「あー……それが、今朝陛下が発表されたんです。『シルヴァ家が痛みを和らげる薬を開発した』って」
「え?じゃあ……」
「はい。彼女はそれを知らず、この大勢の前で『シルヴァ家が自分の開発した薬を盗んだ』って言ったも同然なんです」
「つまり、世界が最も恐れている『シルヴァ家を敵に回した』ということだ」
リリク様が深いため息をついた。
私が手を下すまでもないほどに、どんどんジェシカが勝手に落ちていく。
正直に話す薬、作れたのにな。
試す機会がなくなって寂しい。
私の考えが分かったのか、戻ってきたマナがため息をついた。
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