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「レイラ、まさか熱でもあるんじゃないか?誕生日なのにこんな熱心な事を言うなんておかしい」
「ちょっとお兄様。私を何だと思っているんですか」
そりゃ馬鹿な妹だったけど、そこまでじゃないと思ってた。
怒りながらお兄様を見るとお兄様は困ったように眉を下げた。
「シルヴァ家の血は流れてるから、きっと頭は悪くないはずなんだけど……。ここまで未知の事を言われると少し心配になる」
「平気です。とにかくお兄様、よろしくお願いします」
お兄様の手を除けて書庫から出る。
来年の寒波に向けて農作業をしなければ。
農作業は前世で少したしなんでいる。
祖父母が農家だったからだ。
私の事を心配してくれていた幼馴染たちが私に駆け寄ってくる。
この人達を守りたい。
そう決意した私は3人に笑顔を向けた。
*☆*――*☆*――*☆*――*☆*――*☆*――*☆*――*☆*
それからというもの、私は農作業に没頭した。
家の庭に畑を作り、お兄様が入手してくれた野菜の種を植える。
小麦の品種改良も積極的に行い、なんならお米も育てられないかと研究者的な人達と相談を重ねた。
私が思い描いたビニールハウスも完成し、周りは凄く感動していた。
農業については完璧に物事が進んでいる。
あとは、寒さをしのげる何かを作ればいい。
農作業をしながら寒さ対策について考えるのは凄く大変だった。
だけど、前世であった『暖炉』とか『ストーブ』とか、『毛布』『冬用の服』なども提案した結果、いつしか私は『シルヴァ家の天才姫』なんていうダサい呼び方をされるようになっていた。
そしてついに、大寒波がエストラルドにやってきたのだ。
防寒対策はばっちり。
食料も大丈夫。
これでゲームの世界を一つ変えた!
小さくガッツしているとクラウスが首を傾げた。
「どうしました?レイラ」
「え!?な、なんでもない!!」
今私はクラウスと降り続ける雪について話している。
雪なんて私からしたら珍しくもなんともないけど、この国では当然初めての事だ。
国民が戸惑っている。
『触れると危ない』とまで言われている始末だ。
「この白いものが降りやまないと、国民は外へ出て遊ぶことすら出来ません。肌に触れると体の中に液体が入り込み、病に陥るとか……」
あれ、雪ってそんな恐ろしいものだった?
怪訝な顔でクラウスを見るとクラウスは窓の外を見つめた。
「レイラのおかげで、この寒さはしのげています。外に出なくても暖かい、そして過ごしやすい。それに、食料も尽きる事はありません。レイラが去年、隣国の話を聞いて危機感を持って動いてくれたおかげです。本当にありがとうございます」
「特に何もしてないよ。ただ私が怖かっただけ。てかクラウス、この白いのは全然怖いものじゃないよ。むしろ遊び道具」
「な、何を言っているんですか!またレイラは危ない事を……!」
「いや、ほんとだって。冷たいし、手の体温で溶けるけど、危険じゃないよ」
「そんな……。こんな得体のしれないものを信用なんて出来ません」
「怖がって、一生家の中にいるつもり?そんなの、国の人達が可哀そうだよ」
私はため息をついて椅子から立ち上がった。
「ちょっと窓の外見てて」
そう言って私は外に出た。
周りが私を必死で止めたが突き進む。
傘もさしていない私を見て、メイドさんや執事さん達が慌てふためいていた。
そんなものも気にせずに私は雪を掴んだ。
そして雪だるまを作ると噴水の上に飾った。
我ながら上出来なフォルムだ。
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