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私の知っている元のこの世界では、ティアナは簡単に断罪された。
今のジェシカのように。
でも、ティアナはここまで馬鹿じゃなかったし、少なくともクラウスにはまだ愛情が残っていたようにも感じる。
だってティアナは傲慢で意地悪なお嬢様だったけど、今のジェシカみたいに酷いことを平気でするような極悪非道じゃなかったから。
ジェシカだってクラウスに隠そうとして、ティアナが出来るだけ酷い罪に問われないようにって願って。
……貴女には、そういった気持ちは一切無い。
私は小さいころからティアナを悪役令嬢にしないように努力してきた。
今の幸せが壊れないように、ずっと続くようにって。
私はゲームの世界ではモブだったから、あの世界での私がどういった人物だったのかなんてわからない。
私が幸せになることなんて全然考えてなかった。
カペルとだって、このまま結婚できるなんて思ってなかった。
でも、私の幼馴染達は私の知っている通りに動かなかった。
私を大事にしてくれて、いつだって周りに居てくれて。
ねぇ、貴女はこんなに頑張った事ある?
私の頑張りで創り上げたこの世界を壊そうとする貴女はいらない。
私の世界に必要ない。
私はうなだれるジェシカに近づいて口を開いた。
「これで答え、出ましたね」
「……っ!」
「『愛されているのは私?貴女?』……何もない貴女が愛されるわけないじゃない」
「わ、たし、は……」
「『ヒロインだから愛されて当然』?」
「!?」
「ねぇ、ジェシカ。不思議に思ったことは無い?この世界はあまりにも、『知っている』って」
「知っている……?」
「どうして『暖炉』があるの?どうして『マフラーやコート』があるの?どうしてみんな『雪を怖がってない』の?それって、おかしいよね」
「それの何がおかしい……」
「おかしいよ。だって、貴女はこの世界を知ってるじゃない」
私の言いたいことが分からなかったジェシカは少し考えて、それからハッとして私を見た。
「もしかして……」
「私はこの世界を愛しているよ。『今の世界』も、『元の世界』も」
「……!!」
「貴女が『元の世界』と同じように心の優しいヒロインだったなら、私だって友達になれていたかもしれない。だって私は『単なるモブ』だもん。貴女が誰からも愛されるヒロインだったら、私みたいなモブが何かを言うことなんて絶対に許されない。私は安心してモブとして、この世界を生きていたでしょうね」
「嘘……っ」
「『この世界』に来て、私はティアナの優しさを知った。カペルやクラウスの良いところも悪いところも全部知った。私にとって3人は大切な存在になった。だから、守ろうって思った。私にできることは何でもやった。その努力が私を守ってくれた。……貴女はここへ来て、何か頑張ったことある?」
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