『この世界』の悪役

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ジェシカは周りの人の目を見て青ざめる。 ようやく自分がバカなことをしたと気づいたんだろう。 「気づくのが遅すぎたね」 「……っ」 「この世界が自分の知っている世界じゃないって絶対にわかったはずだよ。便利なものが多すぎるって、薬なんて存在してなかったって、分かってたはずだ。それなのに貴女は気づかないふりをしたんだね。その方が自分にとっても過ごしやすいから。……そうしたら、シルヴァ家がこれほどまで大きな存在だってことにはなってなかったかもね」 元の世界を知っているなら、彼女はもうわかってるだろう。 今の自分が、あの時のティアナと同じだって。 皆からの冷たい目、蔑みの声、味方のいない空間……。 今すぐにでも逃げ出したいだろう。 でもこれが、自分の犯した罪の重さだ。 「ジェシカ、アストロベガ城へお帰り」 「え……」 「一生出られない監獄……知らないとは言わせないよ」 「!!」 涙を浮かべて首を左右に振るジェシカ。 逃げようとしたジェシカを左右から騎士団が捕らえた。 「い、いや!!助けてよ!!私と同じなんでしょ!?あんたも転生者なんでしょ!?だったら……!!」 「モブの私に、そんな力があるわけないじゃないですか」 そう言ってニコッと笑えばジェシカの表情は絶望に満ちた。 連れて行かれるジェシカを呆然と見つめていると、私の隣にカペルが立った。 「レイラ」 名前を呼ばれてカペルを見ると、カペルは私の手を取った。 「なに、この怪我」 「ジェシカに突き飛ばされて」 「……あの女、もっと酷い目に遭わせれば良かった」 「クラウスの大事な日をこれ以上めちゃくちゃにしたらダメ」 私の言葉にカペルは深くため息をついた。 「とりあえず来い」 カペルに手を引かれて会場を連れ出される。 連れて来られた場所は医務室で、カペルは私を椅子に座らせると棚から薬品を取りだした。 「怪我したとこ全部見せろ」 「大丈夫だって」 「俺が大丈夫じゃない」 有無を言わさず傷口に薬品を塗られて痛みが走る。 慣れた手つきで手に軽く包帯を巻くと、カペルは私の目を見た。 「他は?」 「え?」 「怪我。突き飛ばされたって事はまだ怪我してるだろ」 確かにしてるけど、あとは足とかになるし……。 ていうか、カペルに足見られるとか恥ずかしくて無理。 「ほ、ホントにもう大丈夫!!」 「レイラ」 「あとは自分でするから……っ」 「レイラ」 カペルに抱き締められてビクッとする。 なんで……。 「もう、俺の目の届かない所で無茶して怪我するのやめて」 「え……?」 「言っただろ。お前はシルヴァ家の娘だから、世界から狙われるって。それは命だって狙われるって事だ。今日だって何度お前の事話してる人達を見た?聞いた?正直、今日お前が無事だったのは各国の王子殿下がお前からそう言った奴らを遠ざけてたからだ。レオやマナが引き離してたからだ。俺がどれだけ心配してたか……。それなのにお前は、俺の知らない所で勝手に怪我して、挙句の果てにはジェシカに目を付けられて……」 「ご、ごめん……?」 「なんでお前、王子様に気に入られてんの?あの人達が本気出せば俺との婚約関係なんて簡単に終わりに出来るのに」 「そ、それは嫌!」 「俺と結婚したい?」 「うん」 「なら答えて。どこ怪我してるの?好きな子の身体に傷があるとか、俺 許せないから」 カペルの声は甘くて心臓に悪い。 私を抱き締める腕も、声も、全部甘くて優しくて……。 好きだという気持ちで陥落してしまう。 .
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