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「猫田さん。今日はありがとうございました。おかげで助かりました」
「いえいえ。お役に立てて光栄です。では、またのご利用をお待ちしております」
猫田さんは「猫さんバイバーイ」と手を振る園児たちに手を振り返し、園を後にした。あたしもその後を追いかける。
今日の依頼は、保育士が2人休んでしまって園児を見る人が足りないので手を貸してほしい、という保育園からの依頼だった。猫田さんは保育士の資格を持っているので、「はい、喜んで」と二つ返事で承諾。絵本の読み聞かせやお昼ご飯の補助、お昼寝の添い寝に砂場遊びの見守り。今日1日、猫田さんは保育士としてレンタルされた。
「こ、子どもって元気ですね……猫田さんは疲れないんですか?」
子どもを相手にしてゲッソリしているあたしに対して、猫田さんは笑顔だった。今だけではない。週刊誌の編集記者として密着取材を始めて1週間が経つが、猫田さんが疲れた顔をするのを見たことがない。
「疲れたなどと思ったことはありません。借り出された先は全て天職です」
「ほぇぇ……猫田さんは底無しなんですねぇ」
あたしはポケットから小さなメモ帳を取り出して「底無し猫田氏」とペンを走らせた。そのペンは赤、青、黒の3色ボールペンで「犬飼」と彫ってある。あたしの商売道具だ。
今度は猫田さんがポケットからスマホを取り出した。どうやら着信があったようだ。
「はい、レンタル猫田の手です。はい、はい……分かりました、これから行きます」
猫田さんは嫌な顔ひとつせず返事をすると、あたしに言った。
「これから喫茶ハルカゼへ向かいます」
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