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第四章 訪問者
肩を貸しながらなんとか家に辿りつき、すぐに固定用の包帯でぐるぐる巻きに固めておいた。
肋骨にヒビが入った状態で無理をしたから、早くも熱が出始めてる。とりあえず鎮痛剤と解熱剤を飲ませたけど、また暫くは安静にしてもらわなければ。
一方僕は、家中の本棚や物置をひっくり返してエレメントデビルが載った図鑑を探していた。かなり時間がかったけれど、ついさっき、お爺さんの遺品の中からそれらしきものを発見したところである。ヴィラと一緒に読もうと思ってリビングに持ち帰ると、荒々しいノックの音が聞こえてきた。……来客なんていつぶりだろうか。
「はーい」
「セラシェル! お前無事だったか!」
「あれ、カリアじゃないか。どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるかよ。普段は静かな森から、ものすっごい唸り声が聞こえてきたかと思ったら、デッケー氷が現れたり、晴れてるのに雷が鳴ったりでさぁ……心配するに決まってるだろ!」
どうやら心配して様子を見に来てくれたらしい。村からは片道半刻以上かかるのに……なんていいやつなんだろう。事情を話すからと上がってもらい、温かいお茶を用意する。ヴィラも呼ぼうかと思ったけど、部屋を覗くと眠っていたので、そっとしておくことにした。
スリープマッシュを取りに行ったら、帰り道で見たこともない魔獣に会ったこと。2人で協力し、最後にはスリープマッシュの胞子を飲ませて池に沈めたことなどを、出来るだけ簡潔に話した。
氷がヴィラの加護元素であることは話したけど、雷は偶然だと言って誤魔化しておいた。カリアを信用していないわけではないけれど、ヴィラは隠したいようだったから。
「それにしてもヴィラってさ、あんなに巨大な氷を出せるなんて、とんでもない魔力量なんだな」
「そうなんだ。僕は魔力量とか分からないし、純粋に凄いな~としか思わないんだけど……」
「いやいやいや、あれは相当だって。同じ加護持ちって言っても、やっぱ魔力量によって威力が変わるんだよ。俺も火の加護を受けてるけど、全力で魔法を使ったとしても、暖炉より少し強火の火力が出るくらいだし」
「なるほど……?」
「その顔、絶対理解してないだろ。……まぁいいや。無事なのは確認できたし、お前も疲れてるだろうから今日のところは帰るよ」
またなー! と元気に手を振って消えていく幼馴染の姿を見送る。……ふぅ、怒涛の一日だったから、流石に疲れた。
暫くして目が覚めたヴィラと軽めの夕食を取り、その日はすぐに眠りについた。
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▽
それから二日後。
畑の水撒きに行く為にドアを開けると、ドサッという音が聞こえた。どうやら、外側のドアノブに引っかけられていた何かが、地面に落ちてしまったらしい。
音の正体は果物が入ったバスケットだったようで、あっちこっちに転がった果物を集め直すのには苦労した。
黄色くてトゲトゲしたもの、赤くて柔らかいもの、これは紫でつぶつぶだ。見たこともない果物ばかりだけど、カリアのお土産だろうか?
けれど、彼であればドアノブにかけるなんて真似はせず、昼休憩を抜け出して、堂々と手渡しに来るだろう。……まあ、誰でもいいか。見たことのない果物の味も気になるし、ありがたく朝ご飯にでもしよう。そう思いながら、ひとまずはダイニングテーブルの上に置いて、意気揚々と家を出た。
収穫できた野菜を抱えて水撒きから戻ると、ヴィラが真っ青な顔で椅子に座っていた。……体調でも悪いのだろうか? 不思議に思って尋ねてみても、一向に返事は返ってこない。とりあえずストーブの温度を上げてみたけれど、部屋が温かくなっても、ヴィラの顔色が戻ることはなかった。
「あー、フルーツ食べる? 今日の朝ドアのところにかけてあってさ」
「…………」
「珍しいものばっかりだよね! 特にこの赤いのとか……」
パシッ、果物へと伸ばした手が素早く叩き落とされて少し驚く。そんなに果物好きだったっけ。普段は大人びた少年の子供じみた仕草に思わず笑みが溢れる。
「僕は食べなくてもいいけど、君怪我してるんだから僕が剥くよ」
「はぁ……お前には警戒心というものがないのか」
「な、なんだよいきなり」
「こんな誰が置いていったかも分からない果物を食べようとするな。捨てる」
「え、ちょっと、そこまでしなくても」
せっかく珍しいフルーツなのに……。物欲しそうな目で眺めていると、何故かあっさりバレてしまった。
「……捨てたら拾って食べそうだな。燃やすか」
あれ? 不思議だな。どうして出会ったばっかのツンツンモードに戻ってるんだろう。思春期の子供って本当によく分からない。そんな思いを抱きながら、一瞬で果物を消し炭にするヴィラの背中を見つめていた。基本好き嫌いはない子だけど、食育とかした方がいいのかな。
結局、ヴィラはその日一日元気がなかった。怪我の経過は良好だし、ご飯もしっかり食べていたから、体調が悪いわけでもないと思う。絶対安静中で散歩に行けてないことがストレスなのかも。
全く論文に集中できないまま自室で悶々と考え込んでいると、控えめなノックと共にヴィラが入ってきた。
手紙用の紙と封筒を貸して欲しいとのことだったので、もちろんOKだと手渡したのだけど、彼が出て行った後にハタと気づく。その手紙、一体誰用なんだ……?
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