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世界創世記 始まりの兄弟
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昔々のそのまた昔、闇も光もなかった時代。神様は最初に九人の兄弟たちを創りました。彼らにそれぞれ加護を与え、世界を創るための手伝いをさせることにしたのです。
まず光と闇が昼夜をつくり、土・草・風の三人が力を合わせて大地をつくりました。水は大地の隙間に川や海をつくり、炎と氷が四つの季節と天候を、雷が魔力をつくりだしました。
こうやって世界がようやく出来上がった頃、神様はお礼として願いをひとつだけ叶えてあげようと言いました。
彼らは悩んだ末に『もっと仲間が欲しい』と願います。二番目に作られた人間たちは幾分脆いつくりでしたが、兄弟たちは喜んで迎え入れました。
兄弟たちは国をつくって仲良く暮らし始めます。けれど、次第に争うことが多くなり、それぞれの民を連れて、世界中に散らばることを決めました。
ある日、八つの国の間で大きな争いが起こりました。
人間が増えすぎて、土地も食糧も足りなくなってしまったのです。人知の及ばない力を持っていた兄弟たちは、力を存分に奮って戦いました。
しかし、末の弟の力では草木を生やすことしかできません。戦う術をもたなかった彼は、自分たちの身を守ることすら出来ず、目の前で多くの民を殺されました。
これを悲しんだ青年は、自ら命を断つことで世界中の草木を枯らし神様の前で訴えます。
「私の力では、自分の民を守ることすら出来やしない。兄さんたちは人間が死に絶えるまで争うことを止めないだろう。こんな世界なら、なくなってしまった方がいい」
草木が枯れて食べるものが無くなった人々の一部は、それでも大気中の魔力をエネルギーに変えて生き続けました。
しかし、魔力の負荷に耐えきれなかった者たちの中には、理性を失い異形の化け物に成り果てた人もいました。"魔獣"と呼ばれたその化け物によって、人間の数はさらに減り続けていきます。
荒れ果てた大地を見た神様は、とうとう地上に降りてきました。そして、末の弟の亡骸を拾い上げ、兄弟たちにこう言い放ちます。
「お前たちがこのまま争いを辞めぬというのなら、この者の願いを聞き届け、私が世界を滅ぼそう」
兄弟たちはようやく争いを止め、末の弟を殺してしまったことを悔いました。
神様は二度と同じ過ちを繰り返さないことを条件に彼らを赦し、その証として青年の亡骸をその場に埋めてしまいました。するとどうでしょう。亡骸から小さな種が芽吹いたかと思えば、みるみる成長して巨大な木になったではありませんか。
木は花を咲かせ、実をつくり、種を風に乗せて世界中へと散らばりました。こうして荒れ果てた世界に草木が戻ってきたのです。
―世界創世記 第一章 始まりの兄弟―
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