第二章 お出かけ

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第二章 お出かけ

 一緒に暮らし始めてしばらく経った頃、色々と足りないものが出始めた。  もともとは一人暮らしだったから、二人になれば、その分足りないものが出る。その最たるものがだった。僕自身はそんなに食べる方ではないけれど、ヴィラは成長期ということもあって、鍋の半分くらいはぺろりと食べる。  料理を気に入ってくれたのは嬉しいけれど、そろそろ食糧が底をつきそうなのだ。……怪我もほとんど完治したことだし、そろそろ良い頃合いなのかもしれない。  朝食のサンドイッチを半分食べ終わったところで、さもこの瞬間に思い出したかのように口を開く。 「そういえば、今日は村に行こうと思うんだ」 「この辺りに村なんてあるのか」 「あるよ! 歩いて半刻とちょっとくらいかな。ヴィラも来る? 家でお留守番しててもいいけど」 「行く」 「わかった。じゃあこれ食べ終わったら、準備して早めに出ようか」  即答したことを少し意外に思いつつ、残ったサンドイッチを水で流し込んだ。  多めに作っておいた石鹸、飲み薬、塗り薬、薬草、あとはお金。うん、これで忘れ物はないかな。コートに袖を通し、履き慣れたブーツの紐をしっかりと結ぶ。  荷物が詰まった鞄が想像以上に重くて思わずよろめきかけたけど、ヴィラが咄嗟に腕を掴んで支えてくれたので事なきを得た。  大きく息を吸い込むと、少し冷たい爽やかな空気が胸いっぱいに広がる。今日は雲ひとつない快晴だ。ヴィラはコートの上からさらにフード付きのマントを羽織っていた。これは彼が元々身につけていたものなのだが、着ているところを見るのはあの日以来だ。 ▽  村まで歩く間、ヴィラと色んなことを話した。といっても大半は、僕が一方的に話しかけてるだけなんだけど。  僕のことを拾ってくれたお爺さんが亡くなってからは、ずっと一人で暮らしてきた。誰にも縛られない自由気ままな生活は好きだったけど、ヴィラと一緒にいると結構楽しい。  捻くれてるし無愛想だけど、意外と素直で可愛いところもあるんだと最近わかってきた。もし弟がいたらこんな感じなのだろうか。  ーーそうこうしているうちに、森を抜けて一本の道に出る。あとは簡単、道なりに進めば良いだけだ。僕にとっては歩き慣れたものだけど、ヴィラがバテいたら、先輩風を吹かせつつ休憩を挟んでもいいかもしれない。  そう思ってチラリと横目で確認してみたところ、涼しい顔で息一つ乱していないようだった。くそぅ、綺麗な顔してるくせに。自分でも訳の分からない悪態を心で吐いて、しょんぼり前に向き直る。いつの間にか、村はもう眼前に迫っていた。 「いらっしゃーい! 安くしとくよー!」 「さぁ買った買った! 新鮮な魚はどうだい」 「奥さん、ちょっと寄っていきなよ! この果物中々入らないレアものだよ」  足を踏み入れた途端あちらこちらから聞こえてくる声に、思わず笑みを漏らす。随分久しぶりだけど、ここは相変わらず賑やかだ。  ひとまず買い物は後でするとして、とりあえず薬と石鹸を売りにいきたい。村の南西にある雑貨屋と、南東にある診療所が目標であると、地図を指し示しながら説明する。ヴィラはいつの間にか、フードを深く被っていた。綺麗な髪が見れなくて少し残念だ。 「こんにちは~」 「あら、セラシェル君じゃない! 珍しい」 「お久しぶりです、マクナさん」  重い木の扉を押すと、チリンチリンと鈴の音が鳴った。カウンターの奥に座っていた人物が顔を上げてニコリと笑う。彼女はマクナ、この村で一番大きな雑貨屋の店主であり、昔からの顔馴染みの一人だ。 「本当に久しぶりね、元気そうで良かった。……あら、もしかして今日は石鹸を持ってきてくれたの?」 「あ、はい。そんなに数はないんですけど」 「セラシェル君の石鹸は大人気だから嬉しいわぁ! おいくつ?」 「えーと、三十四個です」 「オーケー。……これでどうかしら?」  マクナさんは近くにあった算盤を引っ掴むと、素早い指使いで叩き始めた。提示された金額に頷けば、早速取引成立だ。  受け取ったお金を皮袋に入れて鞄の奥に仕舞うと、店内を物珍しそうに眺めているヴィラに近づいた。どうやら今はガラス細工のアクセサリーを見ていたらしい。黒地の布の上には色とりどりの商品が並べられており、どれも見事なものだった。 「あ、これ……なんか君に似てる」  深い紺色のガラスの中に白い粒が散らばって、まるで星屑みたいだった。イヤリングだと思うけど、片側だけしかないのだろうか。きょろきょろと対となるアクセサリーを探していると、後ろから声をかけられる。 「あ~それねぇ。偶然出来たものだから同じ模様が作れなかったみたい。でも一点ものだし、綺麗でしょう? 片方だけしかないからその分安くしとくわよ」 「──買います」 「はい、まいど~」  気づいたら口が勝手に動いていた。決して懐に余裕があるわけではないけれど、普段散財しない分多少の貯蓄はあるから問題ないだろう。代金を支払っていると、耳元でこっそり囁かれる。 「これ、あの子へのプレゼント?」 「へ……。あ、う、はい。一応、そのつもりで……」 「任せて! 綺麗にラッピングしとくから」  華麗にウインクを決めたマクナさんに、小さな包みを手渡される。それを鞄の一番奥に仕舞い込み、最後にもう一度お礼を言って、ヴィラと一緒に店を出た。
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