そして今(2)

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そして今(2)

    「おお、ここだ!」  何度も訪れた、パソコンゲームのレンタルショップ。お店はもちろん消滅しているが、ビルそのものは健在だった。  通りの反対側には、ちょっと横に広い建物があったはず。そんな(かす)かな根拠にも基づいていたが、それだけではなかった。似たようなビルが建ち並ぶ中、この建物の前まで来た瞬間ハッとしたのだ。  理屈ではなく、感覚的なものだった。 「せっかく来たのだから……」  自分に言い聞かせるように呟きながら、狭い階段を上がっていく。  子供だった当時、西口の雑居ビルなんて、目的のお店以外は怖くて看板すら見られなかった。  でも今は大人だ。しかも年齢的に、既に人生の半分以上が終わっているのは明白であり、今さら怖がることもなかった。  このビルには、どんなテナントが入っているのだろうか。あのレンタルショップがあったフロアは、どうなっているのだろうか。  そんな子供じみた好奇心から、二階の廊下を歩くと……。 「……ここだよな?」  灰色の扉には、薄汚れたプレートが一枚。何かのお店らしく『不思議屋』と書かれていた。  これだけでは何を扱っているお店なのか全くわからない。それどころか看板の汚れ具合から判断すれば、既に潰れた店だろうか?  そんな失礼な考えも頭に浮かんだ瞬間、自動ドアでもないのに、扉が勝手に内側へ開いた。  店内からは、しわがれた老婆の声が響く。 「いらっしゃいませ」  漫画やアニメに出てくる魔女みたいに、フード付きのローブを羽織っていた。  何かのコスプレだろうか。一瞬、先ほど東口で見た乙女ロードの光景を思い出す。 「そんなところで立ちすくんでないで、どうぞ中へお入りください」 「いや、私は……」  話しかけられて反射的に口を開いたが、言葉が続かなかった。  正直に答えるのを躊躇したのだ。きちんとした来訪先もなくビルに入ったわけで、これでは不審者と思われてしまう。  そんな私に対して、老婆は微笑む。 「言葉は()りませんよ、お客様。うちは『不思議屋』です。入れる資格のあるお客様にしか看板は見えませんし、扉は開きません。さあ、中へどうぞ」  言っている意味はわからないが、とりあえず二度も「中へ入れ」と言われた以上、素直に従うべきだろう。  彼女の言葉に背中を押される気分で、私は店内に足を踏み入れた。    
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