ゴールデンドロップ

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土曜日、ポストに一通の封筒が入っている。 ――DNA鑑定結果―― また私の心臓が暴れだした。 恐る恐る開けた封筒。白い紙。 目に飛び込んで来た数字は99.9% 覚悟はしていた数字だった。同時にその数字は私の全てを失う数字だった。 何時間だろう、何を見るでもなく、何の音もしない世界に私はいた。 「美味しいお茶をのみたいなぁ」ふと呟いた言葉で秘書課長から聞いた店を思い出した。 どの様に支度したかもわからず、でも今私は大山の駅にいる。少し歩くと教えていただいた茶処があった。 入り口の扉を丁寧に拭いている女性がいる。 「あのぅ、宜しいですか?」 「はい!どうぞ!」 柔らかな微笑みと暖かな声で中へと案内してくれた。 一歩入るとお店の中だけ空気が違う。落ち着いた澄んだ香りがしていた。 席にはいく種類かの茶葉の説明がついたメニューがある。私は狭山茶の新茶を頼んだ。 カウンターの中のマスターに伝える女性、お二人のやり取りを見てご夫婦なんだとわかった。 席からお茶を用意しているマスターの後ろ姿が見える。 「えっ?」 私はその背中を見て目が覚めた。今日1日ぼんやりとした時間の中、ただ美味しいお茶を飲みたくてやってきたこのお店。そこで私が好きなお茶を煎れる伯父の背中と同じ様に丁寧に最後の一滴を落とす背中を見て私の心は呼び戻された。 「お待たせしました」 静かに置いてくれたお盆の上にはお茶、その横に桜色の羊羮、そして蓋が半分かかった急須があった。お茶の豊かな香りが漂ってきた。 「後程こちらで二煎目を煎れますね」 両手で茶器を持ちひと口、思わず 「美味しい……」と声に出た。聞こえてしまったかと恥ずかしくてマスターの方を見ると並んで奥様の顔。お二人が暖かな微笑みで見ていてくれた。 ゆっくりと味わい飲み干した頃、「入れて来ますね」と奥様が急須を持ってマスターに渡している。
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