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「どうぞ」
お盆に置かれたのはガラスの急須に入った深い緑のお茶。
その緑を見た時、マスターがあの背中でどんな思いを込めてお茶を煎れてくれたのかがわかった。最後の一滴、ゴールデンドロップを落とさない限り、この緑は出ない。
そのお茶を味わっているとお腹が鳴った。思えば朝封筒を開けた時から何も食べていない。
「すみません。このにゅうめんいただけますか」
「はい」奥様は優しく頷きカウンターに入って行った。
お茶をいただきながらカウンターの中を見る。お二人が並んで素麺を茹でている鍋を見ている背中が見えた。
語らずも二人同じ気持ちで寄り添う様に並んだ背中。絆という文字が浮かんだ。私もいつかあんな夫婦になりたかったと目頭が熱くなった。
「優しい時間を過ごせました。ありがとうございます」
その言葉を残し店を後にした。
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