ゴールデンドロップ

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もうすぐタイムリミットの6ヶ月、 朝、いつもの支度をする。いつもと違うのは母が大事にしていた使われなかった茶色い大きめの湯呑みを布で包みバックに入れる。 給湯室でお茶を煎れる、最後の一滴。ポチョーンの音を聞き自然と笑みがこぼれた。 「おはようございます」 いつも通り社長に朝のお茶を出す。「失礼いたします」 頭を下げドアに向かって歩こうとした時。 「いつも美味しいお茶をありがとう」 私は少し驚き振り返った。 「いえ、お褒めいただきありがとうございます」 丁寧に頭を下げた後社長の顔を見ると目が潤んでいる様に見えた。 「君が煎れてくれるお茶は、私が生涯で一番愛した女性が煎れてくれたお茶と同じ味がするんだよ。あれ以来、さっきの言葉は言った事がなかった」 必死に涙をこらえ笑顔を作り 「光栄です。ありがとうございます」 「君は佐藤さんていったよね?」 「はい、どこにでもある名字です。では……」 社長室を出た私は秘書課長の元に行った。 「課長、申し訳ございません。体調が悪く本日はこれで帰らせていただきたいのですが」 秘書課長は心配の声をかけてくれゆっくり休みなさいと送り出してくれた。 カバンを持ち秘書室を出た後、給湯室に寄った。カバンから布に包まれた湯飲みを出した。あの使われない湯呑みの横にそれを置いた。 やはり夫婦湯呑みだったんだ。 エレベーター前で振り返り深々と頭を下げ、人知れずお別れをした。
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