ゴールデンドロップ

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休日に向かった先は、山合の道を抜け所にある一軒の家。扉を開けると懐かしい伯父の姿があった。 「おぅ、よく来たな」 無口な木工職人の伯父の精一杯の迎えの言葉。 「うん、元気だった?」 「あぁ、見ての通り何も変わらん」 返事をすると茶筆の蓋をお盆にした上に湯呑みをひとつ置く。 お湯を湯呑みに移し、急須に茶葉を入れている。 「どうした、急に」 「顔が見たくなって…」 少しの間を開け湯飲みから急須へとお湯を移す軽めの音がする。 湯飲みに注ぐ急須の角度が上り切った時、 最後の一滴を落とす。その背中を見るのが私は好きだった。 「ほい、飲めや」 ぶっきらぼうに、ごつごつした手で湯呑みが差し出された。 「ありがとう」 私の言葉に頷きながら、急須のお尻をポンポンと叩き、蓋を半分乗せて自分の湯呑みを用意している。 お茶を口に運び窓からの景色を見る。 都会のモノトーンの世界から引き戻してくれる鮮やかな緑の葉がさらさらと揺れ、吹く風を光らせている。 耳には急須にポットから直接入れられる少し重めの音が入って来た。 「おぅ、今日のお茶は格別上手く煎れられたみたいだな」 ニ煎目のお茶を口にした伯父が呟いた。 私は知っている。ニ煎目の味で一煎目の味がわかる事を……。 最後の一滴、魂の一滴、ゴールデンドロップが味を決める。 私はそのお茶をあの人に出す。 ある事を確かめる為に……。
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