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母と私の二人きりの生活だった。母は病で他界し今では伯父が唯一の身内。
「伯父さん、私結婚すると思う。本当は一緒に来たかったけど、あと半年海外赴任でいないから、先に報告だけと思って」
「そっか……おめでとう」
暫く見ない間に深くなった皺がいっそう深くなって目を細めて喜んでくれている。
少し遠くを見る目で私に
「それだけか?」
伯父は私の意図をわかってるかの様に尋ねて来た。
「ばれた?」
「美奈子の事だろ?」
久しぶりに聞く母の名前。
「うん」
伯父はひとくちお茶をすすり、コトンとお盆の上に湯飲みを置いた。
「いつか聞かれると思ってはいたよ、それを知りたくて美奈子と同じ会社に入ったんだろ?悪いな七海、何も知らないんだ。美奈子は絶対に話さなかった……それが美奈子の深くて強い気持ちの表れなんだと感じた、だから聞く事を止めた」
また遠くを見る目で語った。
「そうなんだ……。私もそうだろうとは思ってた。でも自分なりに区切りを付けたくて」
「区切りかぁ……」またお茶をすすっている。その姿を見ながら。
「お茶ってさ、一煎目の最後の一滴を出し切らないとニ煎目が美味しくならないじゃない、だから私も」
「上手い事言うな……」
伯父は持っていた湯呑みの中を覗いている。
「手掛かりはお母さんが大事にしていた湯飲みだけになっちゃったけど」
自分に言い聞かす様に言った後、お茶を飲み干した。
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