ゴールデンドロップ

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秘書課初出勤。 ビルの最上階、総務部長の後につきヒールが少し潜り込むカーペットに足を踏み入れた。 ここに来たのは2回目、1回目はプロポーズを受ける1ヶ月前、茶器の補充を頼まれ給湯室に来た時以来。 その時目に入った湯呑みを思い出していた。 秘書室の扉が見えて来るとまた何者かが私の心臓を殴打し始めた。 落ち着け!落ち着け!とその殴打に反応する声が脳内を走る。 「おはようございます。本日付で配属になりました佐藤七海と申します。宜しくお願い致します」 秘書課長に挨拶をした。 「伺ってます。検定試験、がんばりましたね」 穏やかな口調で暖かな微笑み、この方が社長に四半世紀以上支えている秘書課長……。 「敵うわけがない」昨日のリーダーの声が甦る。 以前、雑誌の特集に載った社長のインタビュー。 「会社に着いたら必ず一杯のお茶を飲みます。朝のお茶は災難を避け福が増すと言い、七里帰ってもお茶を飲めといいますから私は欠かせません。それに私には忘れられないお茶の味があるんです」 私の予感が合っていれば、私はそのお茶の味を出せるかもしれない。 ただ、そのお茶は秘書課長の役目。 私は煎れる事が出来ない。 そのチャンスがあるのだろうか。 この6ヶ月以内に……。
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