32人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
秘書課初出勤。
ビルの最上階、総務部長の後につきヒールが少し潜り込むカーペットに足を踏み入れた。
ここに来たのは2回目、1回目はプロポーズを受ける1ヶ月前、茶器の補充を頼まれ給湯室に来た時以来。
その時目に入った湯呑みを思い出していた。
秘書室の扉が見えて来るとまた何者かが私の心臓を殴打し始めた。
落ち着け!落ち着け!とその殴打に反応する声が脳内を走る。
「おはようございます。本日付で配属になりました佐藤七海と申します。宜しくお願い致します」
秘書課長に挨拶をした。
「伺ってます。検定試験、がんばりましたね」
穏やかな口調で暖かな微笑み、この方が社長に四半世紀以上支えている秘書課長……。
「敵うわけがない」昨日のリーダーの声が甦る。
以前、雑誌の特集に載った社長のインタビュー。
「会社に着いたら必ず一杯のお茶を飲みます。朝のお茶は災難を避け福が増すと言い、七里帰ってもお茶を飲めといいますから私は欠かせません。それに私には忘れられないお茶の味があるんです」
私の予感が合っていれば、私はそのお茶の味を出せるかもしれない。
ただ、そのお茶は秘書課長の役目。
私は煎れる事が出来ない。
そのチャンスがあるのだろうか。
この6ヶ月以内に……。
最初のコメントを投稿しよう!