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第二話
よしけんこと俺、吉田はインフルエンサーとして格闘ネタを探してはそれを小説にしていた。鳥羽氏から連絡が入ったのはその時だった。
「というわけで吉田君、異種格闘技戦でもやりたいんだが、ネタになりそうな対戦相手はいないものかねぇ」
「ボクシングなんかどうですか?鳥羽さん。知人に無差別級の選手がいますが」
頭に浮かんだのはボクシング無差別級ランカー、ニックだった。身長185cm、体重72kgのリーチを活かしたアウトスタイルタイプだ
「プロレス対ボクシングか、いいね。これはネタになる。早速頼むよ」
鳥羽氏は大喜びだ。
「まずここにいる鈴木君とカードを組んでくれ。」
鈴木と呼ばれた男は覆面レスラーで身長195cm体重105kgの体格、鳥羽氏には劣るものの立派な巨漢レスラーだ。
控え目な男だった。そして寡黙な男だった。周囲の風景に何ら介入せず、景色の陰影に違和感なく重なり合う。
彼の物静かな立ち回りに視線を重ねると、目まぐるしく猥雑な視覚情報の羅列を、彼の落ち着いた振る舞いの時間軸上に射影してしまう。
そういった特殊な状況、ゆるやかな時間軸上で我々人間が目にするもの、この穏やかさの蓄積を人々は、習慣的に、そして漠然と、静止画と呼ぶようになったのかも知れない。
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