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〈最後〉
最後に彼は
『お願いなんだけどさ、その割れてるスマホ変えないで欲しいんだけど』
と、言った。
「なんでよ、割れてたら運気悪いし、割れてると周りに変えないのか言われるじゃない」
『そっか、だよね。
でも、あの、俺のこと、その、先に死んどいて、すごい勝手なんだけど、その、だから、忘れないで欲しいと言うか』
彼は辿々しくそんなことを言った。
「女々しいわね」
割れてしまった理由も知っているのか。
その場面にもいたんならそこで慰めろよ。
『ひどい』
「スマホ変えたくらいで忘れるわけないでしょ」
そう、ぶっきらぼうに言うと
『そっか』
と彼は嬉しそうに笑った。
でも、彼の最初で最後のわがままくらい聞いてあげようと思った。
他の人にはただの割れたスマホがわたしにはこの世で一番愛おしいものになった。
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