別れ時。

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別れ時。

勘違いしないでほしいが、これは決して尾行しているわけではない。 当の本人から頼まれて見守っているだけだ。 僕は、カフェの奥の暗い席で1人コーヒーを飲んでいる。目線の先には先程知り合った女性と、その彼氏であろう男性が向かい合って話し合いをしている姿がある。 側から見れば仲も良さそうに見えるが、彼女からの事前の説明によると、これは別れ話をしているのだそうだ。 ぼんやり彼女たちを見ていると彼女が立ち上がってこちらに向かってくる。男性は店を出たようだ。 「もういいんですか?」 「はい。もう、わかりましたから。」 「?何が分かったんですか?」 「わかったっていうか、あー、関係が終わったんだなぁって実感したって感じですかね。」 「…?」 「わかんないですよね、周りからしたら全然変わらないように見えるかもしれないんですけど、 話の間とか、  会話のテンポとか、  目線とか、  表情とか、  言葉の選び方とか、  座ってる位置とか、  空気感とか、  手の置き場とか、 そういう細かいことが今までとは全然違うんです。 今まで通り私たちだけの世界だけど、その世界はきっとなかったことになって、作り変わっていっているように思います。 まぁ、今となっては別にいいんですけどね」 彼女は悲しそうに笑う。 「…、」 「こんなこと言われても、困りますよね。  私もなんて言ったらいいかわかんないんです。  すみません。  でも、今のでなんとなくスッキリしました。」 彼女は今にも泣きそうだったが、諦めたように笑った。 そんな顔をさせる原因を知りたかったけれど、 僕にはそこまで彼女に踏み込めるほどの勇気なんて持ち合わせていない。 「そう、ですか。」 「はい。行きましょう。」 「はい。」
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