無数の支配者は雷鳴の先に

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 すでにミノの腹にはジルの子が宿っている。  そしておそらく父はそれを察していた。  予報士は星をたどり、集落と集落を渡り歩く。そこに娘を嫁がせたい父親はいない。それでもふたりが過ごす時間をつくろうというのだ、嬉しいがその真意を測りかねている。  ジルのこの集落での滞在期間は、もうじき一年になろうとしていた。なかには予報士を止め、定住したがっているのでは、という声もある。  彼がどうしたいのか、そこについてまだ尋ねられていない。  そっと撫でた腹はまだゆるりとしたふくらみだ。まだ羽織ったケープで隠せる。だがそう遠くない未来には、存在を主張するようにふくらみはじめるのだ。  ――幼子を連れての旅はつらいだろう。  つらいだけなら踏ん張って耐える、それは集落で暮らしてもおなじなのだから。  だがそれだけではすまない。  おそらく体力のない幼子は旅の半ばで生命を落とす。なにより、旅をするための準備を整えること自体が難しい――物資はどこにいっても乏しいものだ。そのためどの予報士も単独で行動し、いつ途上で果ててもおかしくない。彼らが世捨てびととして扱われる所以だ。
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