無数の支配者は雷鳴の先に

8/11
前へ
/11ページ
次へ
 腹の子のことを知ったときジルは泣き、それから彼から後悔を感じなくなっていた。  ミノが子のことを知らせた日のうちに、ジルは父を訪れ話し合いをしていた。  なにを話したかは聞かされていない。  ただ父はその日から、しきりにふたりを結婚させたがるようになった。そしてジルは出立の準備をしなくなっている。集落で暮らすには技能が必要だ。予報士の彼なら、その技能で集落に居場所を得られるはずだ。  ミノに寄りかかって腹を撫でると、ジルが手を重ねてきた。 「この間、おまえのおやじさんが、俺たちに西にいくようにと」 「西?」 「西の都だよ。新婚夫婦や妊娠中、あとはちいさな子供のいる夫婦か。それを国が集めるんだ。あんまり集落内には広めないように、って前置きらしい」 「へんな話。都なんて遠くて無理じゃない?」  古代の生きものの話といい、へんな話はあまり聞きたくなかった。 「俺はあっちこっち渡り歩いてただろ? なかには金属に埋もれてない土地もあって」  ジルの左目が、壁際の荷物を一瞥した。  その荷の中身は、以前見せてもらったことがある。  たくさんの黒い粉の入った袋と、たくさんの黒い粒の入った小袋だった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加