ある愛の告白

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「もしもーし? もしもーし?」  聞き覚えのある声。老人の声だ。どこで聞いたんだっけ? 「そろそろ起きてもらえるかい?」 「……?」  ゆさゆさと揺さぶられ、ようやく自分の目の前に白衣を着た老人がいるのに気付く。 「えぇと……? あなたは?」 「あぁ、記憶が混乱しているんだね。私は君が申請したこの『レンタル感情』に関する主治医だよ」  レンタル感情……あぁ、そうだ。だんだん思い出してきた。国の方から僕ら青少年はこのプログラムを受けるように言われて、そして僕は感情の追体験ができる催眠装置に入って…… 「夢を見ていたんですか? 僕は」 「大体そんなところ。どうだった、良い夢見れたかい?」  悪戯っぽく笑う老医に、しかし僕は呆然としていた。 「いえ、全く現実感が無くて。彼女に何故あんな事をされたのか、理解できません」 「どんな事があった?」  僕は言われるがまま、夢で見た内容を話した。話が進む内に、老医の顔はみるみる曇る。 「その直美って子に対して、何か感情は湧かなかったかな?」 「えぇと……特に。何だか変で」 「変?」 「何故なんだろう……キスをされて……あ、そっか」 「どうしたね?」  僕は違和感の正体に気付いた。 「キスをされたからおかしかったんです」 「? 好きな人にはキスをするものだろう? いきなりはびっくりするかも知れないけど、そう不自然な感情ではないはずだよ」 「いえ、僕は直美と同じ教室で3年間過ごしていますが、一度も彼女の素顔を見た事がありません。彼女はとてもマジメで、マスクを外した事がないんですよ。だから、キスをする所なんて想像もつかない」  昨今流行の感染症対策のため、僕らは子どもの頃からマスクをしている。「マスクはパンツと一緒! 外しているのは恥ずかしい!」と教育されてきた僕らは、お互いの素顔を見ることなく青春を過ごしてきた。ご飯を食べる時も、男女別々にして食べている。運動をする時も外した事はない。 「……」 「今回のプログラムは、とりあえず終わりで良いんですか?」  僕は帰る支度を始めていた。老医はいいよ、と小さく返して、僕は帰路についた。  老医は一人、部屋で呟いた。 「今の若者ってのは、何とも哀れだねぇ。お互いの顔もまともに見れないから、恋愛感情まで無くしてしまって。挙げ句がこんな『レンタル感情』なんて物でその感情を擦り込もうと……全くバカバカしい」  機械に一発蹴りをくれてやり、しかし大人しく次の患者を招き入れた。
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