枯れた女王様の恋愛事情

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「違うの、ここはもっと恥じらいをもって、もっと焦らして。」 「顔がよく見えない、男優さんは彼女の顔が良く見える様に髪をかき揚げて。」 「もっと感じた振りをして!それじゃあ棒読みじゃない!」 今日も私は細かい指示を出しながら演技指導をしてカメラワークをチェックする。 一通り終わると早速編集に入り、ダメな所はもう一度やり直しをする。 私はAV監督である。 そもそも映画監督になりたかったのに、何故か今はここで毎日エロを撮っている。 毎日毎日AVを撮り続けていると感覚は麻痺する。 行き着いたのは 「結局穴に棒を入れてお仕舞いでしょ?」というエロとは全く違う境地になってしまう位になる。エロとは無縁だ。 しかし需要は充分にある。 当然これだけの作品を造っていると周りは私の事を当然「エロの女王様」と勘違いする。し周りも私の事をそう呼ぶ。 まぁ当然だろう。 女優さんの演技指導から男優さんの指導までするのだ。勿論エロチック心を知っていないと出来ない事だ。 しかし私が手掛けているのは所謂企画物であって一流女優さんの様に半分グラビアみたいな撮影をしているわけではない。 要は企画力が一番物を言う。エロは二番目だ。 チカンだったりナンパものだったり、そこら辺とは違う企画力がないと、結局私の言った「穴に棒を入れるだけの」マンネリ作品になり、すぐ埋もれてしまうのだ。 当の私はもう30半ば。 色んな恋愛をしてきたつもりだが、この仕事に就く様になって撮れば撮るほど、年々セックス自体が虚しくなっていく感覚はもうどうしようもない。 皆に「エロの女王様」と言われるが、私は当に飽き飽きしていて全く興味はない。 仕事だからやっているだけで、自分が求めるとか想像もつかない。 つまり私はとっくに枯れた「仮のエロの女王様」なのだ。 男性といい感じになっても、いざそういう場面になると嫌悪感というが、萎えるのだ。 これが職業病なのかもしれない。 そんな私は実は「処女」なのだ。 もうそんな事、誰にも言えない。 こんなにAVを撮っている監督が処女だなんて、誰も信じないだろうし冗談にしか聞こえない。 とはいえ恋愛処女という訳でもない。 若い時にはそれなりにもてたし沢山の男性とお付き合いはした事がある。 しかし「来るっ!」と思った瞬間、私はさりげなくかわしてしまうのだ。 何故なのか? 勿論キスしたかったし、その先も越えたかった。けれど何かが私を躊躇わすのだ。 結局その何かが分からないまま歳だけ取ってしまった。 若い頃はうぶなんだな。と取って貰えるけれど、歳を取るとお高く止まっている様に見える様だ。 でもそんな歳更に過ぎると相手の方が勝手に勘違いして、自分にはその価値がないんだ、と勝手に離れて行く。 歳を取れば取れば処女は永遠に固くなっていく。 別に今更ながら処女だろうが特に気にしてはいない。 30越えると結婚願望すらも薄くなっていく。 私は鉄壁の「エロの女王様」という肩書きが邪魔をし、ますます普通の女子の幸せが遠のいて行く。 処女なのにAVが撮れるのか? これが悲しいかな撮れてしまうのだ。 最近は情報社会。 キャバクラで働いている時は枕営業をするキャストさん同士で盛り上がる。 結婚した友人の夜の営み話を聞かされる。 撮影の勉強がてら読んだ官能小説。 それと共にキャバクラキャストとしての男の口説き方とすり抜け方。何を話せば喜ぶか、どうすれば指名が貰えるのか? これらがだいぶ今の仕事の糧になっているのは事実だ。 企画力は要は妄想である。 流石アニメではないので異世界ファンタジーは出来ないが、なるべく身近でリアルの中にあるストーリーを脚色していく。 これが監督ごとに色が出る。 私は思うのだが妄想力って多分女子の方が近い。 しかし AVは殆どが男性視聴になってしまう分、如何に男性陣がムラムラするかが大事なのであって、妄想は大事だが、そこに女性観点を入れてはならない。 女性と男性では性的興奮のツボが違うのだ。そこを意識してやらないとAVなんて作っても売れやしない。 だから余計に「男性よがり」になってしまい私は女性として「こんなん女が気持ちいい訳ないだろ」とかなり冷めた感情になってしまう。 なら撮るのを辞めればいい、と思いがちだが、そう思うのと作品を作り上げるというのはまた別である。 評価されるとやはり嬉しいし、自分なりの表現で撮影し出来上がるというのはなかなか監督冥利に尽きるのだ。 私は作品一つ一つにとても手をかけている。 この作品を見ることで、どれだけの男性の股間をムズムズさせる事が出来るか? アングル一つ、真一つを大事にする。 まぁそれがたまたまAVだった、という事だ。 だから仕事自体は嫌いではない。
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