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そんな代わり映えのない日々が続いた。
「私ってこのまま歳取って行くだけなの?」
とふと我に返る事もあるが、この問題は考えたら負けなのだ。
答はない。出会いもなければ肩書きも年齢も邪魔する。
そして自分が処女だという事も、、、
八方塞がりなのである。
そんな代わり映えの日常の中に突如変化が起きたのは変わらない帰宅道だった。
その日はとても雨が降っていて私は傘をさしていたがヒールの上に被っているパンツの裾が濡れるのを気にしていた。
最初は猫でも鳴いているのかと思った。
だってこの路地は私が飼っているココが子猫の状態で棄てられていた場所。
大雨の音に埋もれて微かなうめき声でココは私を呼んだ。
その記憶が甦った。
流石に放ってはおけない。
私は傘を閉じ路地を入って行った。人1人通るのが精一杯な場所だった。
ココを拾った時もそうだったな。何だか懐かしい。
でも近づくにつれ、それが猫の声ではないという事に気がつく。
とはいえ、ここまで来て引き返すのもなんだし、もし私以外にこの声に気がついて貰えなかったら?
この辺鄙な路地なのに?
私はたまたまココをここで拾ったから、いくら大雨でも声は聞こえるし縁のある場所だから分かったけど、、、
でも、、明らかに人のうめき声なんだよなぁ、、、厄介な事だったらどうしよう、、うん。厄介な事をそうだったら警察に場所だけ通報しよう。私はとりあえず様子を見るからにだけ、、本当に、例えば小さな子供だったら??
色んな事を考えたがやはり後悔したくなかったので、その声の主を確認する事にした。
当たり。
声の主は人間だった。うつむいているけど体型は華奢。女性?男性?少くとも子供ではなかった。見た目の外傷はなさそうだが、、声をかけていいものか、、
「だ、、大丈夫ですか?助けを呼びますか?」
私は恐る恐る声をかけた。声をかけられたのはその体が華奢だったので、何かあっても簡単に力ではやられないと思ったからだ。大男だったら、多分違った考えになってたかもしれない。
「ぅ、、うぅーん、、」
ずぶ濡れになった短い髪の毛の主は少し痛そうな?苦しそうな?うめき声を小さくあげながら、顔も少し上げて私を見た。
男性だ!
私は少しビクッとした。しかしそれと同時に目が、、彼の目が明らかに捨てられた子猫の様に純粋に助けを求める悲しそうな目をしていた。
「どうしたの?どこか痛いの?何でこんな所にいるのっ?!」
私は慌てて質問攻めにしてしまった。
多分彼はだいぶ若い。10代ではないと思うが、、何でこんなとこに、、
彼は私を見つめながら大きくつぶらな瞳を揺らせながら言った。
「ご飯、、、、」
と言った途端に彼の顔が項垂れた。
え!?ちょっと待って!意識失った??
ど、どうしよ、、誰か、警察?
でも、ご飯って、、雨凄いし、この子凄く冷たい。だいぶここにいたんだ、、、
ああっ!もうっ!特にケガしてる風でもないし喧嘩したっぽくもないしナイフを握ってたりしてる訳でもないしっ!
とりあえず冷たい!!連れて帰ろうっ!
とはいえ、成人男性、、意識なしでは運ぶのに本当に苦労した。
ココを拾って来た時とはえらい違いだ。
でもあのままなかった事にしていたらこの子【彼】は誰かが気づいてくれていたのだろうか?
彼を抱えたまま警察に行く事も救急車も考えたが、、、状況が怪しすぎる。
何て言い訳する?何故路地裏に私だけが入った?
もし彼が10代なら?事件に巻き込まれていたら?
色々考えた挙げ句が家に連れて帰るという選択肢だった。
とりあえず温めて、ご飯食べさせてしっかりしたら出て行って貰う。その程度を考えていた。
「ほんと、まるで捨て猫だよ、ココちゃん。」
愛猫に声をかけてからずぶ濡れの彼を出来るだけ拭いて着替えさせる。
ドライヤーをかけ布団に入れる。
こういう時男性の裸体に慣れきっているのは役にたった。
手早く服を脱がす事も全身を拭く事もまるで抵抗がない。
新しい人間に興味津々のココ。
「何者だにゃこいつは!」
目一杯匂いは嗅ぐが攻撃しようとはしない。
お粥を作り終える頃には拾って来た大きな猫に寄り添う様にココが彼の顔の側で丸くなっていた。
「冷たい大きな猫にゃ、仕方がないから温めてやるにゃ。」
とでも言っている様に。
彼はこんこんと眠った。
私が近くで物音を立ててもテレビを観ても反応はしない。
神経質で潔癖症な私としてはあり得ない状態だ。
私は枕が変わると眠れない。
知らない匂いの中では落ち着かない。
でもこの拾って来た彼はまるで置物の様に動かないし匂いもそんなにしない。
とはいえ、いつもと違う環境なのは事実なんだから私は当然眠れない。寝る気もない。もしも私が寝ている間に何かあったら!?と思うととても寝れる程私は神経は図太くない。
有難い事にというか本当にたまたま次の日はオフだった。
拾った時は次の日がオフとか考えもしてなかったが、眠る彼を見て、明日休みでほんとに良かった、、と今更ながら思った。
私は撮り貯めしていたテレビドラマを1.5倍でコーヒー片手に観ていた。
だいぶ深夜になってやっと後ろでもぞもぞと動きがあった。
完全に冷えきったお粥をもう一度暖め直し、テーブルに運んだ。
そして彼に近づき額に手をあてた
「うん。まだ熱あるみたいだね。どう?大丈夫?ご飯食べれそう?」
彼は突然の状態に目をパチクリさせていた。
何故自分がここにいるのか?
目の前の女性は誰なのか?
クルクルと頭を動かし今の状況を判断しようとしている。
そして言った。
「、、、ご飯、、」
君はそれしか言えないの??
少しフプッと笑ってしまった。緊張感の欠片もない。
「はいはい、ご飯ね。お粥作ったけど食べれるんならどうぞ。」
私はテーブルを指差した。すると彼は布団からガバッと起きあがり、よつん這いの凄いスピードでテーブルまっしぐらだった。
荒々しくレンゲを掴むと餓えてた動物の様にお粥を掻きこむ。
「誰も取らないから、ゆっくり食べて。」
私はむせながら食べる彼の横に置いてあるカップに麦茶を淹れながらなだめる。
何秒もかからず平らげてしまったお粥。彼は皿を持ち上げ「お代わり。」とまで言ってのけた。
私は呆れるやら、安心やら、とにかく自分とは全く性格の違う彼にある意味変な感心をしながら、母親の如く、
「はいはい。まだあるよ。お腹空いてたみたいだっしね、多目に作ってて良かった。
無くなったらリンゴでも剥いてあげるね。」
彼は隣のソファーでコーヒーを飲む私を意識する事なく、目の前の食べ物に夢中であった。
素知らぬふりして私はテレビを観ていた。
いつの間にか食べ終えて満足した彼は、、、
「えええっ!!寝てるっ???!!!」
自分で元いた布団に戻りまた深く眠ってしまった、、、
信じられない、、
彼と出会って、もう数時間経っているのに、「ご飯」と「おかわり」いう言葉しか聞いていないんだけどっ??!!
普通、「ここはどこですか?」
とか、「あなたは誰ですか?」
とかないのっ??ヤバくない?色んな意味で。
何であんたが家主の私よりぐっすり眠ってる訳??
とはいえ相手は病人。叩き起こす訳にもいかない。
ま、明日はオフだし、明日にでも話聞くかぁ、、
少くともここまでのやり取りで彼は危険人物ではないという事は分かった。
「ココぉーー、やっぱり何だか面倒な物拾って来ちゃったのかもーー」
パフッとココのお腹をモフモフする。
私の話し相手はココだけだ。
「最初僕の事も、面倒だ!面倒だ!って言ってたにゃ。」
ココは私の気持ちを知ってか知らずか、腕からひょいと抜けると
「とりあえず今日は疲れたから、もう寝るにゃ。」
と言わんばかりにベッドに寝るのお誘いをする。
寝る気はなかったのに、ココの喉を鳴らす「ゴロロロロ、、、、」
でついついうとうとしてしまった。
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