枯れた女王様の恋愛事情

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【アメ】は21歳。男の子。路地裏にいたのは雨を遮れそうだった為と空腹で動けなかった為と言っていた。 故郷から夢を抱いて出てきたものの、中々そのチャンスに巡り会わず、職を転々としていた時、偶然知り合った男友達とシェアハウスをする様になったが、ある日、帰宅すると、どうやらその友人が夜逃げをしたらしく帰る家を失った。 そして、多分その友人を見つけようとする怪しい人影を見て、自分も危ないかもしれないと何日かさ迷った挙げ句の事らしい。 本当かどうかなんてわからない。 ドラマならよくある 「き、、記憶がないんだ、、」 の設定で誤魔化せそうだが、あえてそんな作り話をした所で、真相はわからない。 けれど一所懸命にだどたどしくでも私に誠意を伝えようとしている事だけは分かる。 「僕は悪者じゃないよ。」 「僕は迷惑かけないよ。」 私になついて来た理由もよくわからない。ただ「お姉さんが好きだから。」 と、好きの意味わかってる? と突っ込みたくなる程、どストレートに言った。 言われて嫌な言葉ではないが、やはりこの子ちょっと変! アメは何でもこなす。 どこで覚えたのか料理もうまい。気も効くし、絶妙なのは間合いの取り方だ。 お互いの心のスペースにずかずかと乗り込んでは来ない。適度に間合いを図る。 私が一人でいたい時はアメはテレビをぼーっと観てたり猫のココと一緒に遊んでいる。 何だか疲れたなぁと思った時はそっとコーヒーを差し出してくれる。 かといってやってばかりではなく寝る前なんかはよくじゃれて甘えてくる。最近なんかは 「いいなぁ、ココちゃんは、お姉さんといっつもくっついて寝られてーー。」 と冗談か正気かわからないセリフを本気で膨れっ面で言う。 アメは基本外には出ない。 職探しは私の家にあるパソコンでしている様だ。スマホは持っているが連絡先は私しか登録されていない。 だから私が仕事の時はラインでやり取りをする。 「お姉さん、今日何食べたい?」 「んー、何でもいいかな?」 「じゃあお仕事帰りに何でもいい物買ってきてくれない?」 という風なやり取りだ。 そして適当に買ってきた材料で食事を作る。一人暮らしになってから自炊は殆どしなくなった私には人が作った料理は本当に心に染みた。 それは内なるものだけに留まらず、外にもその雰囲気は出ていた様だ。 飲み友達の平本が言う。 「女王、最近やけにパッと帰るよな、やたらそわそわしてるし、え?何?また新しい彼氏?」 確かに、、、家に帰るのを嫌っていた私が帰るのを楽しみにしているなんて、自分でも思ってもいなかった。 そんな風に見えるんだ、、、 自分では意識していなかった。 ただ、今アメはどうしてるんだろう?と確かに考える時間は増えたかも知れない。 でもそれは人としてというより、猫のココが子猫の時と同じ様な感覚だった。 でも猫との違いは、帰宅する我が家に電気が付いている事と、話をすれば言葉で答えてくれるという事が違ってた。 アメに男性を感じていないという点では家に編集中のAVを持ち帰り点検したりする辺りそうなのだろう。 アメは私が仕事モードに入ってる時は邪魔をしない。 ココと同じで好きな所に丸まってるか、ちょこんと横に座って同じ画面を見ているだけだ。 精神的に癒される事もあってか、「数日」の同居のはずが、かれこれ1ヶ月経とうとしていた。 アメはパソコンで仕事をする様になった。 仕事内容は私の撮影した作品の加工処理だった。 決して私が強制した訳ではないが、私が苦手なパソコン作業をしているのを見て覚えた様だ。 今ではアメの方がクオリティが高い。はっきり言ってかなりの高収入が見込まれる様な技術だった。 なのにアメは給料を貰う事を徹底的に拒否する。給料はいらないからここにいたいらしい。そればっかり言う。 流石に私もそこまで意地になられては追い出すにも、無理矢理給料を渡す事も出来ない。スタッフとして会社に登録している訳でもないので別に払わないから困る、という事でもない。 だがアメが仕事を手伝ってくれる様になってからは、スムーズに作品が世に出る事が出来るし、それだけ人件費も浮く。 という事は私の給料も上がる、という事だ。 だからアメには感謝してるしお金も渡して、将来の為に貯めて置いて欲しいと思う。 まだ若いんだし、ここにずっといる訳にもいかない。 頑なに給料を受け取らないアメの為に私は勝手に別に口座を作り、アメ貯金をする事にした。 いずれこの子が外に出る時餞別として渡すのだ。 アメは本当に外に出ない。 身を隠す犯罪者なのか? と思う位、この1ヶ月外に出ていない。 まぁ合鍵は置いて行ってるので、きっぱりとそう断言出来るかどうかは別としても、私が急に帰宅しても、オフの日もずっと家の中にいる。 「アメはどうして外に出ないの?」 と聞いた事がある。 「ん?おうちが好きだから。」 と答えられると、最早何も言えない。 この子の天真爛漫さは何の言葉も無効に出来そうな程、敵わない。 ダメだ。このままでは居心地が良すぎる!感情移入してしまう前に離れなきゃ。 一人暮らしの寂しさが長いと、目の前にいる無邪気で邪魔にならない人間の存在と、一緒に食事する心地よさ、帰宅する時見上げると、自宅に電気が付いてて「一人じゃないよ」と証明してくれる温かさ。 これに慣れてしまうと手放した時の私のダメージは相当なものになるのはわかっていた。 私の今までの空洞を全て埋めてくれる様な存在が、今まさに存在しているのだから。 アメは可愛い。 が、恋愛対象でもないしキスがしたくなる様な存在でもない。 キスよりもココにやる様にモフモフっとやりたくなる存在なのだ。 だからたまに頭を触られるのを嫌がるアメにワシャワシャっと両手で髪の毛を弄る。 「もーっ!あけちゃん、やめてよぅ!」 嫌がるが、怒りはしない。 プンスカしてるアメの顔が楽しい。 アメは初め私の事を「お姉さん」と呼んでいた。たまに間違ったかの様に「明美ちゃん」と言うが、自分の中で納得がいかないのか、試行錯誤で結局「あけちゃん」になった様だ。 まぁ私は【女王様】以外だったら何でも良かったけど。 とはいえ、どうやったら上手にアメを追い出すか考えるのに苦労した。 お互いこのままではダメだ。アメの為にも。 しかし仕事まで手伝って貰ってるのに追い出すには確固たる理由が必要だ。 まぁ本当に私が嫌なら最初の条件の様に「面倒だから出て行って。」と言えばいい話だ。 アメは多分素直に出て行くだろう。 出て行きたくないから給料も受け取らないのだろう。 うぅーん。どうしたものだか、、、、
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