『少し』『不思議な』骨董品屋

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「ない!ないんだよ!種がない!!」  先生が唐突に叫びながら奥の部屋から飛び出してきた。 「柿の種なら先生、昨日食べてましたよ」  店の商品にはたきをかけていた手を止めて僕は答える。 「ああ、あれ最後の一個だったのかあって違うよキミ!種、種子、シード!!」 「マズいマズいぞ!あれが世に出たら大変なことになるぞおおお!!」  ひとしきり騒いだ後に先生は大慌てで店を出ていった。いつもながら騒々しい人だ。  先生があちこちひっくり返して嵐が去ったような荒れた店内を片付け始める。  ――もしかして大麻の種だったりして  不穏な考えが頭をよぎる、実際そんな発想が浮かぶくらいにこの骨董品屋は閑古鳥が鳴いていた。  楽そうだから、それだけの理由でバイトの面接で初めて訪れた店の印象は最悪だった。壊れた掃除機、割れた皿、きっと映らないブラウン管テレビ。そしてそれらに混じって年代物らしきソファや海外の土産物屋で売ってそうな不気味な仮面や古びた人形達が所狭しと置かれている。  怪しい……それが初見の感想だ。  何より出てきた店主が一番怪しかった、身だしなみという言葉とは程遠い出で立ちで伸びるに任せた髪は無造作に後ろで束ねられ顎にはうっすらと無精ひげが生えていた。そこに襟ぐりのよれたTシャツにくたびれたチノパン姿が細身と相まって年齢不詳さと不審者感を醸し出している。  そんな訝しんだ気持ちが思い切り顔に出ていただろうに結果は即日採用で「明日から来れる?」とだけ聞かれた。  後日店主……先生に理由を聞くと「大抵の人は来ないし来ても逃げるように出ていくから」だった。納得しかなかった。  大体バイトの必要性自体ないと思うのだが先生はたまにふらっと出掛けてはそのまま戻って来ない事もあり、店番兼戸締り要員が欲しかったのだろう。  あらかた片づけ終わるとまた暇になった。  ――今日も帰って来なさそうだな……  カウンターに肘ついてぼんやり考えていると店の扉が開いた。 「早かったですね先生、種見つかりました?」  立ち上がり声を掛ける、しかし現れたのはブラックスーツに紫のネクタイ姿の目つきの鋭い年配の男性だった。 「誰だ、オメエ」  開口一番睨みつけられ凄まれた。どう見ても堅気じゃない。 「あ、あの、僕バイトで、店番、してます……」 「ふーん。アイツは?」 「先生は、さっき出掛け、ました」 「先生?」 「は、はい、店長って呼ぶと嫌がるし名前は教えてくれないし、なんとなく先生と……」 「先生、先生ねえ。こりゃいい」  年配の男性は軽く笑うとようやく視線を外してくれた。 「が帰ってきたら『また来る』って伝えてくれ」  そう言い残し店を出ていった。 「あ」  蛇に睨まれた蛙のように固まっていた僕は安堵と共に大事なことを思い出した。 「名前聞き忘れた……」
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