『少し』『不思議な』骨董品屋

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 結局その日に先生は帰って来なかった。終わりの時間が来たので戸締りをし帰路に着いた。  コンビニで買ってきた弁当を食べながら今日一日を思い返す。  働き始めて2ヶ月、初めて人が来た。けど絶対お客さんじゃない、借金取り?それともまさか本当に大麻を育てていてそのブローカー?  店はあんな状態でどこから収入があるのか不明だし奥の部屋は入室厳禁ときつく言い渡されていた。  背中に冷たいものが走る。  骨董品屋と呼べるのかも怪しい、いやそもそも存在自体が怪しい店だが今日の来訪者で犯罪の可能性も出てきた。これ以上関わったらヤバい、本当にヤバい。  食欲を無くし食べかけの弁当に箸を置いてうな垂れた。 「バイト辞めよ……」  翌日、退職の決意を胸に店を訪れると閉まっていたので預かっている鍵で開けて入った。  目に飛び込んできたのは床に転がり微動だにしない先生の姿だった。  ――え? 「……先生?せんせーい?」  呼びかけても動かない。  動悸が激しくなり顔が熱を帯びていく。  ――え、死んでる??昨日の人が殺した???  こういう時よくドラマだと駆け寄って揺さぶったりしているが怖くて足が竦みとてもじゃないが近寄ることが出来ない。  ただただ「やばいやばいやばいやばいやばい」と延々と口から漏れるように呟き続けていた。  震える手でスマホを取り出し画面を開く。警察?救急車?手も画面も震えて上手く画面を押せない。 「止めとけ」  不意に後ろから声を掛けられた、昨日のヤクザ者なのはすぐに分かった。  激しい鼓動とは裏腹に今度は顔から血の気が引いていく。逃げたいのに動けない、振り返ることすらできない。  足音が近づき真後ろまで迫る、もうどうしようもない、覚悟して固く目をつぶり声にならない悲鳴を上げた。  が、足音は僕を通り過ぎ先生に近づいていった、うっすらと目を開けると丁度ヤクザ者が倒れている先生の横腹を蹴るところだった。 「おい」  鈍い音の後、先生からうめき声が漏れる、その声も聞き終わらないうちにもう一度蹴りを入れた。 「グッドモーニングは言葉の矛盾であるってな」  痛みに耐えながら先生が頭を上げる。その様を見下ろしながらヤクザ者は 「グッドモーング、」  と起きるのを催促するように声を掛けた。 「キックは控えたまえとあれほど言っただろう……痛ててて」  蹴られたことをさほど気にしている様子もなく先生が上半身を起こす。 「起きねえだろうがよ、で、例のモンは?」 「ああ、昨日色々あってねえ、ようやく今朝戻ったって訳さ」 「おかげで寝不足で」  先生が欠伸をしながらズボンのポケットをまさぐり袋を取り出した。 「杜撰すぎんだろ、ったく」  袋を受け取ろうとヤクザ者が手を伸ばしたが袋の口が開いていて中身がこぼれる。  中は何かの種でそのうちのひとつが腰を抜かした僕の目の前に転がってきた。  急展開についていけず呆然と二人のやり取りを見ていたが種の転がる乾いた音に我に返り拾い上げた。 「あ」  その様子を見ていた先生とヤクザ者が揃えて声を発した。
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