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始まりはただの好奇心だった。
高校に入学して数か月が経った。うちの高校は決してレベルの高いところではなく、多くが惰性で、もしくは滑り止めとして受験する。そんなんだから、真面目と不真面目の中間のような半端者が多く集まる。授業中はクラスの半分が寝ていて、もう半分はゲームをしたり音楽を聞いたり、先生の話を聞いているのなんてごくわずかだ。それでも、授業をサボり教室を遊び場にするような不良じみた奴は一人もいない。「学生の本分は勉強」という風潮に忠誠も反抗もしない中途半端、俺もその一人だった。だから、立ち入りを禁止されていた屋上に足を踏み入れたいと思ったのは、学校のルールに歯向かいたいとか、そんな話ではなくて、何もない日常にただ好奇心という芽が生えただけだった。
昼休み、購買で飯を買って友達と話しながら教室に戻っていた。いつも通り、階段を上って、渡り廊下を歩き、屋上に続く封鎖されているはずの階段の横を通った。その日、普段ならあるはずの進入禁止の立て札とチェーンが無いのを見て、俺は歩く友達に構わず足を止めてしまった。止まった俺に気づいた友達が同じように階段に目をやる。
「登ってみようぜ、どうせ屋上は鍵かかってるだろうけど。ちょっと上まで行って帰ってくるだけ。」
誰が言ったか定かではないが、俺たちは校則に背く背徳感と新天地へ赴く高揚感で気持ちは全員同じだった。バレないように素早くかつ静かに階段を上る。上った先には小さな踊り場と扉が一枚、俺は自然とドアノブに手をかけた。音が鳴らないようにゆっくりとドアノブを捻る。捻り切って扉に鍵がかかっていないことが分かる。俺は鍵がかかっていないとは微塵も思っていなかったから、どうしようかと周囲の友達に目配せした。ただ、ここまで来て屋上に出られるチャンスがあって行かないのはもったいない。俺はドアノブを捻った時よりもさらにゆっくりと扉を開いた。
決死の思いで辿り着いた屋上は想像以上でも以下でもなかった。期待だけ膨れ上がった秘密の場所など、案外そんなもんだ。あったのは達成感だけ、でも俺たちはそれだけで十分だった。
今更だが、屋上が開いていた理由を考えると、誰か人がいてもおかしくなかった。そう思った矢先、俺たちが入ってきた扉がガチャと音を立てて開いた。入ってきたのは掃除用具を持った50代くらいの用務員さんだった。屋上が開いていたのは掃除のためだったようだ。幸いなことに屋上は広く、俺たちは用務員さんに見つかることなく脱出することが出来た。
その日は夜になっても屋上に辿り着いた瞬間のことを思いだして、なかなか眠りにつけなかった。
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