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 次の日も購買の帰りに屋上に入れるか試してみようという話になった。これは俺からの提案だった。昨日と同じように階段を上り、渡り廊下を歩いて、階段の前まで来た。唯一違ったのは、今日は立て札もチェーンも健在だったということ。友達は諦めたような顔で俺を見たが、俺は障害物を乗り越えて階段を上った。友達の静止も無視して前へ上へと進んでいく。そもそも、立て札もチェーンもいつだって乗り越えようと思えば出来た、俺はどうしてこれまでやってこなかったのか不思議に思うくらいだ。そして、屋上へ続く扉の前に辿り着いた。俺はドアノブに手をかけ、思いっきり回す。ガッ、鍵がかかっている。俺は階段を下り友達の元に戻った。友達は「そうそう空いてるもんじゃないよ。」「昨日はラッキーだったな。」と言って、すぐに別の話に移った。  さらに次の日には一人で屋上向かった。友達には部活仲間と飯を食うといって抜けてきた。今日も立て札とチェーンはあったが、俺にとってはもう障害物でも何でもなかった。当然のように通過して扉の前までやってくる。ガッ、今日も閉まっている。あの日は運が良かっただけで、もう開いていることはないのか。階段を一段ずつ下るたびに気分が落ちていくようだった。そんな気持ちで動きがゆっくりだったからだろうか、ちょうど通りかかった先生に見つかった。  ひどく叱られたが、親を呼ばれることも成績に響くこともなく厳重注意で済んだ。しかも、先生もダメなものはダメというばかりで納得のいく説明をしてくれたわけではなかった。そんなもんだから、俺は懲りずに隙を見ては屋上へ向かった。  数日が経ったある日、例の階段の前でクラスメイトに会った。友達というには疎遠で、知り合いというには親密な、まさにクラスメイトと形容するのが正しい間柄の女の子だ。たしか、友達の一人が少し気になっていると言っていた。その子は階段の前で立ち尽くして、立て札を眺めている。今日は諦めて教室に戻ろうと思ったが、向こうもこちらに気付いたようだった。気付かれた手前、話しかけないわけにはいかない。  「こんなとこで何してんの?」  その子は立て札を指さして話をしてくれる。  「屋上、行ってみたいなーって思って。私、この高校に通ってたお姉ちゃんがいて、お姉ちゃんの代では屋上行けたらしいんだよねー。先生に聞いたら、最近、教育委員会から禁止命令が出されて立ち入り禁止になったって。高校生活で一度でいいから行ってみたいよねー。」  なるほど、先生が大した説明をしてくれなかったことには合点がいった。  「そうなんだ。」  ただ納得とは裏腹に、俺は屋上を気にしていることを知られないように素っ気なく返す。  「でも、屋上行ったんでしょ?聞いたよー。」  途端、度肝を抜かれるような問いに俺は一瞬固まった。あいつか。俺の中には一人の友達の顔が浮かんでいた。気になっている女の子に武勇伝を語りたくなるのは男の性分らしい。  「先生にチクったりしないから、安心して。でも、屋上に出入りしてる人がいるって噂になってるみたいだから気を付けてね。」  心配するように教えてくれた。実は俺が屋上に行こうとしてここに来たことにも気づいていたのだろうか、その子は「じゃ。」といって足早に消えてしまった。
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