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 噂が流れているというのは本当で、一週間もしない内に俺の元にもその噂がやってきた。ただ、噂というのは尾ひれがつきもので、屋上に出入りしていることすら真実とは異なるのに、いよいよ荒唐無稽な話になっていた。噂の内容はこうだ。  『今や閉鎖されてしまった屋上だが、屋上に出入り自由な番人なる生徒がいるらしい。その生徒は屋上閉鎖に伴い秘密裏に作られた屋上に続く扉の合鍵を持っていて、屋上に入る瞬間に居合わせると一緒に連れて行ってもらえる。そして、運よく連れて行ってもらった人の中から次の番人が選ばれ、代々受け継がれてきたそうだ。』  噂とは夢があった方が面白いが「代々受け継がれてきた」なんて一体誰が考えたんだか。だが、噂の効力は強かったらしく、それから屋上までの封鎖された階段の近くではよく人を見かけるようになった。誰かとの待ち合わせ場所にする奴、階段近くを一般通過のふりをして何周も歩く奴。とにかく、隙を見て行くなんてことが出来る状態ではなくなった。  とはいっても、噂は噂だ。ひと月も経たないうちに人影は見なくなった。まあ、あれだけ人がいれば真偽はどちらにせよ噂の番人も姿を現さないだろう。番人の噂は消えることはなかったが、として扱われ多くの人が気にしなくなった。  良い頃合いを見計らって、俺はまた屋上へ足を踏み出した。何気なく手にかけたドアノブ。ガチャ。その感触は初めて屋上に入ったあの日に感じたそれだった。鍵が開いている。……番人?いやいや、あれは俺が友達と屋上に入ったことが始まりのだたの噂だろう。……本当にそうか?俺が勝手に自分が噂の根源だと勘違いしていただけで、全く別の、それこそ噂の張本人がいたのかもしれない。俺は恐る恐る、半ば期待を持って扉を開いた。
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