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 次の日から俺は屋上へ行くことも行こうとすることも無くなった。屋上には二度も侵入し、噂の元も屋上に入ることが出来る理由も明確になり、未開の新天地は完全に開拓されてしまったのだ。束の間の楽しみはあっけなく幕を閉じ、いつもの友達との日常に戻った。授業で出された課題だけをこなし、定期テストは赤点回避にだけ努める。刺激を求め変化を好まない中途半端な毎日。  昼休み、今日は友達が部活仲間と飯にいってしまったので、一人で購買へ行って帰ってきた。いつも通り、階段を上って、渡り廊下を歩き、封鎖階段の横を通った。そこには普段通り立て札もチェーンもあったが、加えて前にも同じ場所で会ったクラスメイトの女の子がいた。  「こんなとこで何してんの?」  今度は気づかれる前に話しかけた。  「屋上って案外何もないんだなーって思って。」  「屋上に入れたの?」と俺が聞く前に「この前、たまたま用務員さんに入れてもらったんだ。これ、秘密ね。」とその子が答える。それじゃあ、用務員さんの言っていた俺以外の屋上に入ってきた人ってのはこの子のことだったのか。  「それで、高校生活でやりたかったことの一つが出来たわけなんだけど、他にもやりたいことはあるわけ。」  その子はこちらを見るでもなく話を始めた。  「お姉ちゃんがさ、当時の友達とタイムカプセルを校庭に埋めたそうなんだよね。ところが、お姉ちゃんたちタイムカプセルのこと完全に忘れてて、掘り出しておいてって頼まれたの。でも、一人で掘るなんて大変だし、タイムカプセルの場所も大体しか教えられてないし。」  姉妹を持つ人特有の気苦労を感じる。  「でも、お姉ちゃんの友達の一人に今はない部活の部長がいて、当時の部室(ぶしつ)の鍵を管理してたそうなの。なんと、その部室が今は使われてない地下室なんだって。地下室があるなんて初めて聞いたよね?」  うちの高校に地下室があるなんて話は聞いたことが無いが、歴史のある高校だからありえなくはないか。淡い期待に心が揺らいだ。  「そんで、卒業と同時に部活が無くなるからって、タイムカプセルにその部室の鍵も入れたそうなの。今は使ってない地下室だから、鍵も当時から変わってない可能性が高いって。」  そこで、ようやく、初めて、その子が俺の方を向いた。  「どう?一緒に地下室の鍵、探してみない?」  俺の心には既に新しいものへの好奇心が芽生えていた。
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