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 千寛の浮かべた悲しげな表情に、透子はついになにを言うこともできなくなった。  千寛はちゃんと理解しているのだ。自分が死者であり、からだの持ち主は双子の兄の真寛であると。  本当なら、こんなことがあってはいけないのだ。死んだ人間の魂を生きた人間のからだに宿らせたって、死んだ人間は、自分がすでに死んでしまったことをより強く実感することになるだけだ。 「ごめんなさい。わたしがあんな写真を撮ったばっかりに」 「本当だよ。……なんて、冗談。きみのせいじゃない。気にすることはないよ」  千寛は笑顔だった。千寛が笑ってくれることで、胸の痛みが和らいでいく。  千寛なりの気づかいなのだ。どれだけ自分がつらい気持ちでも、透子が意味もなく傷つかないように笑顔を絶やさずいてくれる。  優しい人だ。千寛も真寛も。無条件に他人を思いやれる二人を、どうやったら嫌いになることができるだろう。 「じゃあね。今度こそ帰るよ」  透子に背を向けた千寛は、ひらひらと手を振り、生徒会室の扉をスライドさせた。一瞬のうちに見えなくなった千寛の背中を、透子は残像を目で追うように見つめ続けた。  もう二度と、千寛に会うことはできないのだろうか。  もしかしたら、明日になっても真寛の魂は戻らないかもしれない。このままずっと千寛の魂が真寛のからだに宿り続けるかもしれない。  都合のいい妄想だということはわかっている。千寛は言っていた。明日になったら千寛は消え、真寛の魂が戻っているはずだと。透子もそう思う。科学の発展した現代で、およそ現実とは思えない不可思議な現象がいつまでも続くはずがない。  千寛は六年前に命を落とし、本来ならば透子とは出会うことがなかったはずの存在だ。そんなことは百も承知で、現実を受け入れなければならない。  なのに、このまま千寛と二度と会えなくなるのがどうしても嫌だった。もう一度、あと一度だけでいいから会いたい。なぜそう思ってしまうことを止められないのか自分でもわからないけれど、心の中で千寛の存在がどんどん大きくなっていくのを感じる。
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