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 生徒会室の床を蹴り、透子は廊下へ飛び出した。あと少しで先の角を曲がっていってしまう千寛の背中に、ありったけの勇気を振り絞って声をかけた。 「千寛くん」  千寛は透子を振り返ってくれた。黙ったまま、透子の言葉を待っている。 「また、会えますか」  ろくに考えることもせず、正直な気持ちを口にした。どうしてもっと気の利いた言葉が出てこないのだろう。こんなセリフ、千寛を困らせるだけなのに。  透子の思いを断ち切らせる意図があるのか、千寛はどこまでも真剣な表情で言った。 「僕のことは、もう忘れて」  手も振らず、笑いもせず、千寛は廊下の角を曲がり、姿を消した。千寛なんて最初からいなかったかのように、透子だけが立つ廊下は冷ややかに静まりかえる。  忘れられるはずがない。さっきまで透子の目の前にいて、言葉を交わしていたのは真寛ではない。千寛だ。真寛の双子の弟。六年前に亡くなったはずの。  動悸が治まらなかった。足にうまく力が入らず、夢の中を漂うように全身がふわふわしている。  明日、新しい朝が来たら、千寛は消えているだろうか。  消えないでほしい。今日真寛とそうしたように、明日の朝、千寛に「おはよう」と言いたい。  どうしてだろう。真寛ではなく、千寛のことばかり考えてしまう。もう一度彼に会いたい。できることなら、真寛にも会わせてあげたい。  叶わない願いなのだろうか。なにかいい方法はないのか。
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