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ふと、指先に感覚が戻った。右手には、千寛に手渡された写真。
不運な火事によって引き離された兄弟の今が写る、透子に不思議な時間を体験させてくれた一枚。
「もしかして」
一筋の閃光が脳裏を駆ける。透子は食い入るように写真を見つめた。
真寛のからだに千寛の魂が宿ったそもそものきっかけは、透子の撮影したこの写真だ。真寛のソロショットに、千寛の影が写り込んだ一枚。
つまり、生きた真寛の姿と、幽霊になった千寛の影を同じフレームの中に収めることができれば、魂の入れ替わり現象が起きるのではないか。オカルト要素が強すぎてさっぱり現実味はないけれど、まったくあり得ない仮説というわけでもないはずだ。現に二人の魂は、透子によって偶然撮影された非現実的な心霊写真を機に入れ替わっている。
二十枚以上撮った中で、千寛の影が写り込んだのはたったの一枚。狙ったわけではもちろんないので写り込みは単なる偶然に過ぎないのだろうけれど、二十分の一なら確率的には途方もなく小さいというわけではない。同じ確率で出現する保証はないものの、チャレンジする価値は大いにある。
父から譲り受けたニコンで、もう一度真寛を被写体にして撮影する。そうすれば、新たに千寛の影が写り込んだ一枚が撮れるかもしれない。千寛に会えるかもしれない。
真寛がそうしたように、透子も二人の写る写真を胸に抱く。
あと一度でいい。千寛に会いたい。透子だけでなく、真寛もきっと千寛に会いたいと思っているはずだ。血を分けた兄弟と生き別れ、うまく笑えないほど悲しくさみしい日々を過ごしているのだから。
明日になり、真寛の魂が戻っていたら、彼に相談してみよう。透子の立てた仮説が正しければ、千寛に会うためには真寛の協力が不可欠だ。
あるいは、透子よりもずっと頭のいい真寛のことだ。透子が思いつくプランよりも確実で賢いやり方を考えてくれるかもしれない。
心を奮い立たせるように、透子は「よし」とつぶやいた。真寛にリードしてもらえればまともに話すことができるけれど、自分から彼に話しかけるには相当の勇気が必要だ。
胸に抱いていた写真に目を落とす。
今はただ、もう一度千寛に会える未来だけを想像することにした。
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