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2.
「では続いて、今年の文化祭のメインテーマ『TOYBOX』に込めた思いをお聞かせください」
「はい。『TOYBOX』とは、日本語に訳すと『おもちゃ箱』です。一、二年生のクラス展示、三年生の演劇、縦割りチームでの巨大モニュメント製作と、出し物としては例年どおりですが、今年の目標として、脱マンネリを心がけ、目新しさやわくわく感を特に追求してほしいと僕は考えています」
脱マンネリ。難しい言葉を使うなぁと透子はファインダー越しに真寛を見つめながら思った。マンネリとはどういう意味だっただろう。確か、心がときめかなくなった状態、だったか。
生徒会室の片隅で、新聞部によるインタビューがおこなわれていた。年三回発行される学校新聞ではなく、生徒会特別号という形で発行する号外用の取材だ。二週間後に開催される生徒総会に向け、校則の改定について、文化祭についてなど、生徒主導で学校を運営していくために必要な議題をあらかじめ生徒全体に周知しておくために、生徒会が新聞部に依頼して作成させる新聞だった。
開け放たれた窓の向こうから、色とりどりの音が聞こえてくる。吹奏楽部の熱心な練習の音。サッカー部や野球部による大きなかけ声。シジュウカラのさえずり。木の葉のざわめき。
シャッターを切っている時にはまるで聞こえてこないのに、覗いたファインダーから右目を離し、ふと気を緩めた瞬間に耳に届くそれらの音を楽しみつつ、透子は人望の厚い生徒会長、暁真寛の写真を何枚も撮った。真寛は謙虚な姿勢を崩すことなく、新聞部部長の女子生徒から放たれる今年度の学校祭についての質問に、一つひとつ丁寧に、自信をその声に乗せて答えていた。
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