夢の終わりに、見た夢を

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風でゆらめく影の中、彼女は楽しげに微笑んだ。自分の話したい通りの方向に会話が進んでいるのだろう。 「いやね、この前すみれと話したの」 そして加奈は得意そうな顔をする。 「すみれ?」 いささか間延びした逡巡は、同級生の新田すみれ子の顔と名前を導き出した。 「あの子、誰とも話したがらないじゃない。よく話かけたわね」  感心しながらそう言った。 私の感心を正面から受け取って、加奈は少し照れくさそうに頭を掻く仕草をしてみせる。 「最初はね、なんか煙たがられちゃったんだけど、面白くお話してみたいなって思ってさ。それでね、ちょうど本を読んでたから、その本に何が書いてあるのかって聞いたんだ」 「それで、夢の話でもしてくれたわけ?」 「そう、その本には夢とは何かっていうのが書いてある本だったわけ」 私は静かに相槌を打つ。そうやって、彼女の話を促した。その仕草が、ますます加奈を興に乗せてしまったようで、彼女は今日の陽光よりも目を輝かせて話を継いだ。 「その本によるとね、夢っていうのは人類最古の創作物なんだって!」 なんとも大きな話になったと思う。 一瞬にして、話に置いていかれそうな予感。 「どういうこと?」 私は素直に聞き返す。 「んとね、夢の中っていいことも悪いこともあるでしょ?それで、その背景とか、場所とかもあるわけじゃない?」 彼女は、早口でまくし立てるように言う。何か面白いこと、楽しいことを話すとき、彼女はいつもそうだった。 「うん」 私はそんな彼女の姿に、微笑ましさすら覚えながら頷いた。 「それでね、考えてみるとそのあらすじとか、舞台とか全部自分の頭で作っているんだよ!つまり、私達は毎晩々々、自分の作った創作物を鑑賞してから目を覚ますってわけ」 そこまで聞くと、妙に感心してしまう。確かに、面白い話だったから。 夢。自分の創作物。なんだかそう言うと、ちょっぴり恥ずかしいような気もしてしまう。 ただ――。 「ちょっとまって。あんた、さっき私の夢を聞いたでしょ?」 「そうだよ」 加奈は悪びれなさそうに言う。 「それって、私の創作物の内容をあんたに教えてたかもしれないってことじゃない。自分の書いた物語とか、知り合いに見られるのってめちゃくちゃ恥ずかしいのよ?」 私が眉をひそめて呟くと、加奈はにやりと笑みを浮かべてこう言った。 「えへへ、知ってる」 呆れてしまう。けれども、怒る気になれない。加奈の役得だと思う。 「じゃあ、あんたはどんな夢を見たの」 私は加奈に水を向ける。できるだけ、自分のことは言いたくない。 それほど、私は自分の創作に自信がなかった。 そんな私をよそに、彼女は得意げな顔をして言う。 「俳優の木島くんがね、私をデートに誘ってくれる夢」 なんだか、損をした気分だ。 もちろん、自分の創作がどうのとか、そうやって生真面目に内省までした私は多分、彼女よりも馬鹿なのだ。馬鹿真面目とは、きっと私の事を指す言葉なのだろうと思う。 「素敵な妄想ね」 自嘲のついでと言わんばかりに、棘が仕込まれた言葉が漏れた。 「ひどい。夢小説っていってよね!」 けれども彼女は、意に介さない。 私は、ため息を飲み込んで、彼女の方に向き直る。けれども、何を言って良いのかわからない。棘についての謝罪をすべきか、意に介していないなら、適当な冗談でも言うべきか。そんなことを考えるには、あまりにも教室は夏だった。私の思考は、まるで逃げ水のように曖昧で、あるのかないのかわからないものになっている。 そうこうしていると、担任が廊下から教室へ顔を出し、加奈のことを呼びつける。加奈は私に何かを言おうとしてやめた。そしてぷいっと向こうを向くと、そのままスタスタと行ってしまった。
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