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そんな私のようすに、影は気づいたようで、そのトンガリボウシが乗っているような頭部をションボリと垂れさせ、申し訳なさそうに言う。
「あ、すみません。やっぱり奇妙ですよね、ボク」
「……い、いや」
気を紛らわせるように、スポンジを手に取り、コップを洗っていく。
作業をしながらだと、少し緊張がほぐれた。
「それで、ですね。早くしないといけないのですよ、【影探し】。こうしている間にも、エポさんの命のともし火は削られているのです」
「う、うーん……」
影によるあまりにもファンタジーな話に、言葉では理解しながらも、頭では理解しきれていなかった。
——〝なくなってしまった私の影〟を探す。
そうしないと、私の命が数日後に消えてしまうらしい!
(なにそれ……? そんなヘンテコな話、聞いたことがないよ)
【影】との出会いは、セミのオーケストラが響きわたる、夏の日だった。
鮮やかな天色をバックにした入道雲のさらに上で、ジリジリとした太陽が元気よく、素っ気ないコンクリートを照らしている。
夏休みは、クーラーの効いた部屋に引きこもるに限る。
こんな暑い季節は、大人しくしていたほうがいいんだよ。
(最近、わるいことばっかり起きているしなあ)
両親は今度の夏休み、二人そろって海外出張に行く。
絵本作家のお母さんに、建築デザイナーのお父さん。
二人それぞれ感性を磨きに、フランスへ行くという。
(二人が家を留守にするのはいつものことだし……自由きままにやりたい放題するかな)
なんて思いながらも、だらだらしてる。
そもそも暑すぎて、なんにもする気にならない。
ボーっとしながら、やることやるだけ。
学校の宿題もやらなきゃだけど、広げる気すら起きない。
親のいないキッチンをながめる。
寂しくなんてない、と思い込む。
いやいや。私ももう来年は、中学生なんだよ。
子どもっぽくダダをこねるなんて、恥ずかしいよ。
この頃、イヤなことばっかり起きてるから、ちょっと不安なだけ。
そう。なんだか最近、体がダルいんだ。
ちゃんとたっぷり寝てるし、ご飯もしっかり食べるのに。
そんな不安な日々を過ごしながらも、月は眠り、太陽は登る。
いよいよ、今日から夏休み。
お父さんとお母さんは早朝に、フランスへと旅立って行った。
「夏休みの間、お手伝いさんを雇ったって言ってたけど……いつ来るんだろう?」
今までお手伝いさんなんて雇ったことなかったのに、急にどうしたんだろう。
まさか課題をちゃんとやってるかどうか、二人に報告するための監視係?
嫌だな、私……人見知りなのに。
初めての人と話すのは、とても緊張する。
その時、玄関から〝ピンポーン〟とインターホンが鳴った。
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