夕陽のなかのプラネタリウム

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「そういうワケで、次は動物園に行ってみようと思います。ご両親は、動物園にもよく連れて行ってくれていたと、言ってましたよね?」 「まあね」 「さあ。また、出かけなければ! 楽しみですねっ」  そう言って、ホオヅキはシュルンと、私の足元におさまった。  動物園か。  次こそは、見つかるといいな、私の影。  でも、そうなったら……ホオヅキはいなくなっちゃうのかな。  電車から降りると、すでに太陽が沈みかけ、家への帰り道は夕日に染まっていた。  私の足元にいるホオヅキが、長ーく伸びている。  影だから、当たり前か。 「フフフ、どうです? エポさん。ボク、とっても背が高くなったでしょう」 「うん」 「カッコいいでしょう?」 「え」  いや、そんなこと言われても。  夕方だから伸びたなあ、くらいにしか思わなかったよ。  ホオヅキは影だから、顔のパーツがほとんどないし。  カッコいいとか、そうじゃないとか、考えたこともないな。 「か、カッコいい、カッコいい」 「テキトーに言いましたよね?」  影だけど、わかる。  今、ちょっと怒ってる。 「そんなことないよ」 「いーえ、テキトーでした! もっと、マジなトーンで言ってください。〝カッコいいよ、ホオヅキ〟って!」 「め、めんどくさ……ん? 何か聞こえない?」  子どもの泣き声だ。  そう言えば、この近くにはデンデンムシ公園があるんだ。  小さい時、カタツムリのすべり台でよく遊んだんだよね。  私は急いで、その公園へ向かった。  着くと公園のベンチのそばで、三歳くらいの男の子が泣いていた。 「おかあさあん! どこお……」  迷子みたい。  私は、男の子にかけよった。 「きみ、お母さんとはぐれちゃったの?」  男の子が、コクリとうなずいた。 「お家、どこ? 連れてってあげる」  しかし、男の子は何も答えてくれない。  ぼろぼろと涙を流しながら、悲しそうにうつむいている。  仕方ないか。  小さい子だし、家への道なんてわからないかも知れない。  それにお母さんとはぐれて、すごく不安で混乱してるんじゃないかな。  私だって、子どもの頃は自分より大きな人と話すの、苦手だったもん。  いや、それは今もか……。  交番に連れて行ったほうがいいんだろうけどなあ。  そこへは歩いて二十分もかかる。  こんな小さな子には、きつい道のりだよ。  親がいれば、車に乗せて、連れていけたんだろうけど。  よし。おんぶして、この子を交番まで連れていこう!  私がそう決断した時、ふいに男の子の泣き声が止まった。  そして、すぐに「キャハハ!」という、笑い声に。  驚いて見ると、近くのベンチに、夕日に照らされた、影絵が映しだされていた。  西に沈む夕日、東側に設置されたベンチ。  そこで影が、空色に溶けるオレンジを背景に、いきいきと動き回っている。  ——ホオヅキだ。
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