おしゃべりな月

1/9
前へ
/55ページ
次へ

おしゃべりな月

 ——それにしても、この影、よく喋るな。  私は、口下手だ。  なので、目の前にいる、お喋りな〝人でないもの〟に対して、どう接していいのか、わからない。  ずいぶんな時間、異常なモノに話しかけられたりしていたので、緊張やらなんやらで、スッカリのどが乾いてしまった。  冷蔵庫をあけ、飲み物を探す。  ドアの棚に入っていた、麦茶を取り出し、ガラスのコップに注いでいく。  すると影が、パタパタと右手らしき細い影をふり、ふらふらと揺れた。 「エポさん。ボクは【影】なので、おかまいは結構ですよ。麦茶などは、飲みませんので」 「はあ」 「しかし……麦茶とは、夏を感じます。夏と言えば、麦茶ですよね! 麦茶は緑茶やほうじ茶よりも、利尿作用が少ないのです。カリウムという成分により、余計な水分のみを体内から排出してくれるんですって。だから、夏は麦茶なんです。だから! 麦茶は! ザ・夏の飲み物なんです!」 「へえ……」  ムダにテンション高く語る影に私は適当に返事をし、飲み干したコップをシンクに置いた。 「では、エポさん。さっそくですが」  まだ、影に話しかけられるのに慣れない私は、肩をビクリを震わせた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加