僕たちの課題

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 白い点が真っ暗な画面でぐるぐる回りはじめた。Windowsが更新プログラムとやらを構成しているらしい。だからいまはやめろ。それいまやることじゃないから。ぶつけるところのない怒りが湧いてきて、ひとりでイライラする。  文字の上で白い点が回る。いったい何周回るんだろう。ずっと見ていたら目が回りそうだった。それでも画面を睨みつける。  早く、早く起ちあがれ。ちっとも起ちあがらないパソコンに僕は手を貸してやりたい。けどできない。パソコンには手も足もないから。  もしかするとこのまま日付けが変わるのでは? 不穏な思いが芽生え、僕の心臓は破裂せんばかりに鼓動を打ち鳴らす。  先生は締め切りを過ぎたらどんな理由があっても受け付けませんと厳しい。社会に出ればそれが当たり前だとも言っていた。  時間がないだけに僕の焦りはピークに達する。  意味もなくエンターキーを何度も押しつづける。『PCの電源を切らないでください』淡々としたメッセージで訴えているが、もう待てない。  僕は主電源に手を伸ばす。えい、どうにでもなれ。  電源が切れ、真っ暗な画面に戻る。もう一度、電源を入れる。  起ちあがってくれ。 「更新プログラムを構成しています……」  まったく変わってなかった。電源を切るなと書いてあったけど、切ったところでなにも変わらない。焦りまくる僕を嘲笑うかのようにパソコンはマイペースに仕事をしている。  そうこうするうちに日付が変わった。  ああ、やってしまった。とうとう課題を出せなかった。あれほど悪戦苦闘してやり終えたのに、それはもう昨日のことになってしまった。  終わった。と思うと同時にホッとしている自分もいた。これまで僕は一度も休まず課題を提出してきた。いつしかそのことに縛られていたみたいだ。呪縛から解き放たれたような気がした。  事故ともいえる不運だったけど、いちおう出そうと努力はしたわけだし、今回はパソコンがストライキを起こしたのだから仕方ない。結果より過程が大事とも言うし。そう思ったら、さらに気持ちは軽くなった。このまま空も飛べそうだ。  一度提出が途絶えると、あとは雪崩のようになりそうで怖い気もしたけど……ま、いっか。  次の課題はなんだっけ。早くもサボりそうな予感がしていた。
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