僕たちの課題

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「よっ、町井」  大講義室で講義の開始を待っていると、隣に友人の梅木が座った。 「おう」と僕は軽く応える。 「こないだの課題できた?」さっそく梅木が聞いてくる。  これから文化人類学の講義がはじまる。毎週水曜日の2コマ目の講義で、出席するだけで単位がもらえるというありがたい講義だ。講義の終わりには課題が出される。梅木がいう課題とはその課題のことだ。  課題は翌週の日曜日までに提出すればいい。つまり今度の日曜日が先週分の提出期限になる。レポートにまとめ大学のポータルサイトから提出することになっていて、提出する、しないは自由。ただし、出せば点数が上がり、成績につながる。だから僕たちは毎回提出していた。ちなみに先週出された課題は『あなたの考える文化的な暮らし』だった。 「あんなもんとっくに出したよ」  けっこうがんばって書いたけど、余裕ぶってみる。 「わ、なんだよ。ちくしょー。町井はいつも早いなぁ」  梅木がこのやろとか言いながら肩を押してくる。こいつはいつもギリギリに提出している。そして提出したあと、必ず僕にメールしてくる。『間に合った』って。いやいやそんな報告いらないから、と思うけど、そのじつ僕も彼の動向が気になっていたりしている。  課題を出せば成績があがる。就活にも有利になる。  はじめはそれが目的だった。だけど、いまは違う。以前、筋トレをやっている友人が毎日やらないと気持ちが悪いと話していた。  いまの僕たちの状況は、きっとそれに似ていると思う。  提出期限は絶対厳守。さあ、今回もギリギリか、それとも断念か、僕はリラックスした気分で彼の動向を見守ることにした。  そして迎えた日曜日の夜。梅木は23時59分にメールを寄越してきた。 『ギリギリセーフ。危なかったけど間に合った』  いやほんとその報告いらないから。そう思いつつ、来週の日曜日に提出する課題のことを早くも思った。梅木は次も出すのだろうか。
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