季節柄

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いつものとおり、テレビをつける。 「はい!こちら植物園前です」 朝のバラエティ番組から、若い女性レポーターの声が響いた。トースターにパンを放り込み、湯を沸かし、洗面所に駆け込んで、ゆっくり眺めてはいられないのだが、弾む明るい声がBGM代わりにちょうどよく、時間もチェックしながら出勤の支度ができる。 「芽吹きの春ということで、職員の若松さんに、いろんな植物を紹介していただいてます。春ですね。植物も伸びますけど、私もね、身長伸びたんですよ!髪とかもこないだ切ったのに、また伸びて。伸びるの早いなって。春ですよね~」 他愛ないおしゃべりが微笑ましい。コーヒーを淹れながら画面に目をやると、若松さんという男性職員も気さくに笑って相槌を打っていた。好感を抱きつつトーストをかじり、ネクタイを結ぶ。 「あ、あちらもよく育ってますね。丸い緑のつぼみが、実のようにふっくらとたくさんついてます。これは、なんていう植物ですか?」 レポーターが指し示すと、説明をふられた若松さんは、なぜか首を傾げてしまった。 「えぇと、これは――昨日まではなかったんですけど。いつの間に、誰か植えかえたのかな」 打合せが不十分だったのだろうか。テレビに背を向け、飲み干したカップと皿を流しに運んだ。進行が滞らないよう、レポーターは元気よく中継を進めている。 「今日の春らしい陽気で、一気に成長したのかもしれませんね!あ、見てくださいここ、カメラさんほら、すごいすごい、うっすら、緑のつぼみに白い切れ目が入って、これ、今まさに花開こうとしてますよ!あ、あっちも、あれも、ほら、次々と。すご~い、どんなお花が――え?!」 驚きを最後に、音声が途切れる。振り返ると、画面も真っ黒ではないか。なんだなんだ、どうした。  流しの蛇口を閉めてテレビに近づくと、電源ランプはついている。入れ直そうと主電源ボタンに手を伸ばしたそのときだった。ガチャン!けたたましい音とともに画面が割れ、破片が飛び散る。 「?!」 目が合う。緑色の茎を伸ばしてテレビから生え出した、パッチリ開いたむきだしの目。巨大な丸い目ん玉。息をのむ間に、続々枝分かれし先を膨らませ、三日月形にひかれた白い一線からまた緑の目蓋が開かれ―― 「わあぁぁぁ!!」 終
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