ショコラ  理想的な家族4ー良子

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 後から聞いた話だが、小太郎はあの時、わたしをナンパしたつもりだったらしい。 「だって、りょうちゃん、すっごい綺麗なんだもん。そりゃ、公園で見つけた時は、あの人大丈夫かなってくらいだったけど、顔見て匂い嗅いだら、ぜったいこの綺麗な日本人のお姉さんと仲良くなろうと思ってさ。擦り傷見つけた時は『あ、これだ』と思ったよ」  小太郎はわたしが年下だと分かった途端、「りょうちゃん」と呼び始めた。どうやら、その呼び方がとても気に入っているらしい。  それにしても、要は「一目ぼれ」だと言われているのに、ちょいちょい引っかかる言葉に気を取られて、素直に喜べない。わたしの匂いを嗅いでから、気持ちが盛り上がったらしいし、あの擦り傷も言うほど心配していなかったということになる。  言わなくてもいいのに。  小太郎は言わなくてもいいことまで、言ってしまう。  困ったことに、わたしは小太郎のそんなところまで、心憎からず思ってしまう。  小太郎のナンパは成功した。  わたしたちは今、パリの片隅のアパルトマンで一緒に暮らしている。  それも小太郎が住んでいたところに、わたしが転がり込んだ形だ。  小太郎は二十二歳だと言っていた。パリの製菓店でパティシエの修行中だと言う。あの日の大量の買い物は、店の買い出しだったというわけだ。キッチンペーパーを勝手に使って、怒られなかっただろうか。  わたしは二十歳だと言っているが、本当は十七だ。  未成年だと分かったら、小太郎は親の許しもなく一緒に住むわけにはいかないと言うかもしれない。だから、年齢も偽った。  小太郎と違って、わたしは秘密が多い。
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