見える幽霊はみな怒っている

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 カヨは様々な場所で似たような体験をした。いずれも共通しているのは、その「幽霊らしきもの」はみなカヨに怒っているのだった。しかし怒られてはいるのだが、カヨは何故か恐怖を感じなかったので、なんか変な力に目覚めたものだなー、と気楽に構えていた。  そんなある日。その日もバイトは夜の勤務で、カヨはあと三十分で仕事も終わりだ、などと考えながらレジの前で突っ立っていた。すると一人の女性が客として入って来た。年齢は八十を超えるだろうか、かなり高齢のおばあさんである。彼女はゆっくりと歩いて来てカヨの前を通り過ぎた。するとその後ろを一匹の黒猫が彼女に付いて来ている。カヨはすぐにその猫に実体がない事に気付いた。 「動物は初めてだな…」  そう思いながらおばあさんと黒猫を見守った。  しばらくしておばあさんは商品を持ってレジに来た。すると彼女の足元にいた黒猫が背中を丸めて 「シャー!」  そう叫んでカヨを威嚇して来た。やっぱり怒ってるのね、カヨはそう思ったが、その姿がなんとも言えず可愛らしかったので、時折その姿を見ながらレジを打った。そして会計が終わるとカヨは思わずおばあさんに話しかけてしまった。 「かわいい黒猫ですね」 「え?」  おばあさんは驚いた顔をしている。カヨはしまった、と思ったがもう遅かった。 「あ、いや!なんでもないです!」 「…黒猫?」 「えっ?いや、その…」 「…黒猫が、みえるの?」 「その、えーと…」 「どんな黒猫?」 「え?」 「どんな黒猫だった?」  おばあさんは真剣な表情をしている。カヨは正直に答えようと思った。 「すごい怒っています。背中を丸めて、シャーって言っています」  そう言うと、おばあさんは突然大きな声で笑い出した。 「…それ、たぶん私が飼っていた猫よ」 「えっ?」 「一年前に死んじゃったけれど。あなたには見えるのね。機嫌悪くするとすぐ怒ってね、でもそれが可愛くって可愛くって」  おばあさんは満面の笑みをしている。 「ありがとうね。思い出させてくれて。こんな遅くに出歩くことほとんどないんだけど、今日は良い一日になりました」  そう言うと、おばあさんはカヨに深く頭を下げて店を出て行った。カヨはただ彼女を見送るしかなかった。黒猫はもういなかった。
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