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一
四十にして惑わずなどと言うが。
私は相変わらず世捨て人にも哲学者にもなれていない。
長女和与子の婚約者、四条公爵家の三男・斉哉殿が英国留学から帰ってきたせいで心乱れるばかりだ。
「正午にはご帰国のご挨拶に見えられます。昼食を共にし、春の婚儀について詳細を」
「会いとうない」
「また童のような我儘を。和与子様ももう十九。十五十六で嫁がれる姫様方ばかりの中にあって、初恋の方を二年待ってのご成婚。こんな目出度いお話がありますか」
「目出度くなどないっ」
だがそれでも、和与子の幸せを思うなら……!
「慣れておかないと千和子様もあっと言う間ですからね」
「言うなっっ」
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