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あの自覚が芽生えた僕の話
僕の名前は以西仁斗。僕はよく「人と違う」と言われる。この前だって、食事の食べ方について友達にこんなことを言われた。ファミレスでスープを飲んでいる時のことだ。
「なあ以西、スープ飲むときはスプーン使えよ」
「やだよ、このほうが飲みやすいもん。それにスプーンは上手く持てない」
「だとしてもだ。結構、はしたないぞ。舌で掬って飲むのは」
「そうか? みんなやってるだろ」
「やってねぇし!」
またある時は、草野球で監督にこんなことを言われた。
「おーい、仁斗! ちょっといいか」
「はい、監督! 何でしょう?」
「お前、帽子をちゃんと頭に被れないのか?」
「え? 被ってますが。ちゃんと頭に」
「いや、でもお前、その触角みたいなやつの上に引っ掛けてるだけだろ」
「監督ぅ、これは触角ではなくて、僕の頭ですよ」
「んな訳あるか! 触角の生えてる所が頭だぞ。帽子に穴開けるなりして、ちゃんと頭にかぶりなさい」
「穴開けてこれ出したら、それこそ頭に帽子を被ってないじゃないですか。おかしなこと言いますね、監督」
てな具合なのだ。僕は皆と同じ、何も変わらない。ずっとそう思っていた。でも、今回の一件で、あることを自覚させられた。その一件とは――
コンビニで、友達と一緒にレジの順番を待っていた時のことである。列の前から二番目に立っている人物がとても僕に似ていたのだ。
頭に二本の触角が生えている。耳まで裂けるほど大きな口から、ラブラドール・レトリーバーのような長い舌が垂れている。眸は黄色く、小さな黒目。
そして決定的なのが、前後を逆にして履いているズボンのチャックから、蜥蜴のような尻尾を出していた。僕と同じことをしている。友達が、僕の耳に顔を寄せ小声で言う。
「以西、あの人お前に似てない?」
「そうだね。僕もそう思ってた」
「率直に訊くが、あの人見てどう思う?」
「異星人」
「だよな。てことは?」
「僕も異星人」
「そう!」
僕の中で、自分は異星人なのだという自覚が芽生えた。
おわり
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